アトリエトーク

旅と学びのコラム 「アジア、ものづくり、町工場」 第18回

平成26年3月14日

新しき糧YOSHI <ペンネーム>

上海の町を車で移動中、信号で止まると、老婆が物乞いに寄ってきたこともあった。バンドゥンの少女の場合と同様である。社会主義の時代の中国はどうだったのだろうか。僕が大学生だったころの中国は文化大革命が終わった時期で、まだまだ自由に旅行できなかったが、それでも見ておくべきだったと残念に思う。

翌日は蘇州に行き、工場の立地状況について当局の説明を受けたあと、午後からある日系の建設機械の部品メーカーとプレス部品メーカーを訪問した。昼食をホテルで取ったが、そこのウェートレスのチャイナドレスのスリットが「えっ、そこまでええのん。」というくらい深かった。そんなことが強く印象に残っている。人民服の時代は遠い昔である。

翌日、上海を代表する工作機械メーカーを訪問した。国営工場の広大な構内には量産されたようであまりありがたみが感じられない毛沢東の塑像が残っていた。昼食を工場の食堂でご馳走になった。学食や社員食堂が大好きな僕は喜んで食べたが、他の日本人はお腹をこわさないか、心配しながら食べていたそうだ。午後から国内線で広州に移動した。

上海虹橋国際空港から広州白雲国際空港まで約2 時間半である。広州で案内してくれたおばちゃんは、今は蛇のシーズンで、夫に食べさせて、精をつけさせるのだと言っていた。「食は広州にあり。」と言われる。市内には蛇料理専門店もあった。市場を歩くと、さまざまな食材が売られている。たらいの中でうごめいている無数の小さな蟹かと思ってよく見ると、さそりであった。通りでは、犬や山羊がぶら下げられて売られている。

亀もペットとしてではなく、食材として売られている。今の日本では肉も魚も切り身で買うことが多いが、羊頭狗肉と言うことばがある中国では、一匹、一羽、一頭で買って、自分で切り分けるようだ。日本ではもはや調理できない人が多いだろう。

しかし本来はそうした作業をした上で食すべきなのだろう。日本では命をいただいているという感覚があまりにもなくなりすぎてはいないだろうか。命あるものを自らの手で殺すことを免れ、単なる食材として調理している。牛や豚や鶏を自ら殺してでも食べたいか、と自問する必要はない。

犬いりまへんか、山羊かいまへんか
犬いりまへんか、山羊かいまへんか

さそりもうまいでっせ
さそりもうまいでっせ

広州では本田とトヨタの自動車工場を見学した。広州市内には僕らの世代にとってはなつかしいトロリーバスが走っていた。子供時分の大阪にもトロリーバスが走っていた。

中国の建築現場では竹で足場を作っている。現在の日本では鉄パイプと鉄製の足場板を組み立てている。一昔前は丸太と足場板を番線(針金)で縛って足場をこしらえていた。

広州ホンダの四輪車工場
広州ホンダの四輪車工場

かつては日本にもあったトロリーバス
かつては日本にもあったトロリーバス

最近、尖閣諸島問題で日中関係が、竹島問題で日韓関係がうまくいっていないというこくになっている。学生や息子たちと話していても、中国や韓国をあまり好ましく思っていないようだ。好きだの、嫌いだの、言う前に行ってみることだ。そして、行く時には日本人としての価値観を捨てていく。日本基準で考えないことだ。現地ではどんな生活をして、どんなものを食べているのか、を知ろうとすることだ。そして、これまでの歴史的な関係がどうであったのかを知っておく必要がある。

○○人=嘘つき、彼らの言っていることはまちがい、という思い込みは、日本人=○○という外国人による思い込みと同じである。中国での南京大虐殺、平頂山事件、731部隊、フィリピンでのバターン死の行進、国内での九州大学生体解剖事件など、日本人が犯したと言われている戦争犯罪についてまずは知っておく必要があろう。われわれ日本人は善良であって、そんなことを絶対するはずがないと信じて、耳をふさぐことをしないことだ。むしろ、誰であろうと、いつの時代であろうと、人間は同じ過ちを繰り返しうると考えておいた方がよいだろう。そして、どういう条件が人間をそのように変えていくのか、について歴史から常に学び続ける必要がある。

広州から大阪への帰途、飛行機の座席に設置された液晶ディスプレイで飛行ルートを見ていると、南昌の近くを通った。祖父の末弟、母の叔父が戦没した地である。正確には戦死ではなく、戦傷を負って本国に送還される前に自決したのである。痛い目にあったけどこれで生きて日本へ帰れるという安堵感はなく、恥辱に耐えられなかったということだ。職業軍人でなくても、そこまで思い込まされていたのである。

さて、今回でいよいよネタが尽きたので、幕引きとします。人生で最も活動的で自由な大学時代にいろんなことにチャレンジして下さい。(おわり)

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