旅と学びのコラム 「アジア、ものづくり、町工場」 第17回

平成26年2月15日

新しき糧YOSHI ＜ペンネーム＞

2005年の10月30日から11月5日まで、上海周辺と広州に行った。この時の出張はこれまで書いてきた旅行とは趣きが異なる。ある日本の業界団体からの委託で、他大学の機械工学の先生、メーカーの技術者、業界団体の技術担当職員と4人で現地企業を訪問し、調査するのが目的であった。費用は業界団体持ちである。

飛行機は日本航空のビジネスクラスを予約してくれた。ビジネスクラスに乗るとCAさんのふるまいもちがってくる。乗客にものを尋ねるのに上から目線（あちらが立っていて、こちらが座っているので普通はそうなる）ではなく、下から目線で、すなわち腰を下ろして、話しかけてくるのである。

機内食も手が込んでいて、エコノミークラスのように１パックを電子レンジでチンして出すというのではない。和食をチョイスすると、それぞれの料理が陶器に盛られていて、大吟醸酒なる飲んだ記憶がない日本酒までついてきた。

関西からの参加は僕一人だったので、他のメンバーと上海のホテルで落ち合うことになった。僕の搭乗機は東京からの人達より早く上海に着くので、一人のうちに市内見物することにした。浦東国際空港からドイツの技術で建設されたリニアモーターカーに乗った。時速400kmでぶっ飛ばし、怖いくらいであったが、10分もすれば終点で、後は地下鉄に乗り換える。

まず向かったのは虹口の旧日本人居住区である。古い洋館も多いが、道端に洗濯物が干してあるような庶民的な町である。戦前から使われている建物がたくさんあった。中国の集合住宅では物干し竿を窓から垂直に突き出して、洗濯物を干している。秋の上海の通りでは天津甘栗を煎りながら売っていた。こんな寄り道をしてホテルに着いたら、ちょうど東京からの人達がチェックインしていた。

上海では京都大学で経済史を学び、日本人女性と結婚したAさんが案内と通訳をしてくれた。初日の晩はそのAさんの案内してくれた店で会食した。4年前の北京ではおいしいものにありつけなかったが、今回の出張ではまずいものを口にすることがなかった。夕食後、有名なテレビ塔のある黄浦江東岸に上海の夜景を見に行った。

川には派手なイルミネーションで飾った観光船が行きかっていた。夜景を見に来る観光客向けに、偽ブランド時計を売りつける輩もたむろしていた。

20世紀の初めにこの黄浦江の改修工事を指導したのは、オランダ人の土木技術者デ・レーケである。彼は明治時代前半に大阪を流れる淀川の修築工事に従事し、30年間にわたって日本の土木技術に貢献したお雇い外国人であった。

ホテルは朝食込みだと知りつつ、翌朝は一人で外に出て、中華のファーストフード店で、お粥と豚饅を食べた。上海駅に近いところで、冬の訪れを感じさせる冷えた道端に布団を敷いて寝ている人がいた。天秤棒に大荷物を引っ下げて、駅に急ぐ人もいた。現代の光景の中に古い中国が時折、交錯する。

午前中は上海交通大学を訪問して、味千ラーメンで昼食をとった。日本ではなじみがないが、中国ではあちこちにある熊本ラーメンのチェーン店である。午後は郊外の昆山にある日系軸受メーカーの工場を見学した。高速道路で行くが、舗装が悪く、時折、車が跳ねる。途中にユニクロの工場があった。

この日の晩は上海蟹を食べた。旬の味である。しかし、ズワイガニのように大きなかにではなく、したがって脚肉は少なく、主にかにみそを食べる。水産物店が軒を連ねる銅川路の通りは、深夜になっても大賑わいであった。

翌日は自動車のプレス金型を製作している工場とニトリ向けなどのプラスチック製品の射出成形とその金型を製作している工場を見学した。晩は理由をつけて他の人達とは離れて、上海の町を一人歩きした。上海の中心街南京東路はネオンサインの洪水である。吉野家が目に止まってここで夕食にした。

中国の吉野家は日本に比べてややステータスが高い。メニューも牛丼中心ではなく、牛肉に加え、鶏肉、カリフラワーや人参、ブロッコリがご飯の上に乗っかっている。それに、わかめスープ、茶碗蒸しがついたセットメニューもある。南京東路をぶらぶらしていたら、中学生くらいの女の子に声をかけられた。

田舎から出てきたけど、帰る汽車賃がないという話を聞かされた。その女の子と一緒に人のよさそうなおばちゃんが付いてくる。少女は英語で話しかけてくるが、おばちゃんはにこにこして英語を解さないようである。二人の関係を尋ねても要領を得なかった。どうもこの手のおねだりが多いようである。

あんまりつっけんどんにもしづらかったので、いくらか渡して、お引取り願った。
(つづく)

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