アトリエトーク

旅と学びのコラム 「アジア、ものづくり、町工場」 第10回

平成25年7月15日

新しき糧YOSHI <ペンネーム>

2005年の夏休みに、はじめて韓国を訪れた。しかしながら韓国に足跡を残したのは、実は最初ではない。1997年のインドネシア行きは、大韓航空を利用したので、ソウル経由だったからである。でもその時は、金浦(キンポ)国際空港から一歩も出なかった。今回は韓国語も勉強した上での、満を持しての(と言うほどでもないか)訪韓である。

8月9日に関西国際空港を発ち、20日に帰国する12日間の旅程だった。目的はソウル市内の大学、図書館などでの文献資料収集だ。海外に行く時は少しでも早く異国情緒を味わいたくて、外国の航空会社を選んできた。この時も大韓航空か、できれば乗ったことのないアシアナ航空で行きたかったが、単に安いからという理由で、珍しく全日空を使った。

仁川(インチョン)国際空港に到着して、金浦空港に移動し、そこで夕食としてプルコギ定食を食べた。プルコギは最近では日本でもおなじみの肉料理である。韓国では飯茶碗と箸がステンレス製である。陶磁器の伝統のある国なのに、なんでかステンレス茶碗だ。箸も平べったくて使いづらい。韓国では茶碗を手に持って食べると行儀が悪いそうだ。日本と逆である。キムチは頼まなくたって、白菜や大根など数種類付いてくる。

プルコギ定食
プルコギ定食

国立中央図書館
国立中央図書館

夏のソウルは暑かった。緯度が大阪より高いので、少しは涼しいかと思ったが、大阪と同じような蒸し暑さに閉口した。インターネットで長期滞在者用の安いホテルを予約した。中心部からも観光地からもやや離れた地下鉄楊坪(ヤンピョン)駅が最寄りのこのホテルは、後で述べるように僕にとっては最高の立地であった。ホテルはシンプルで、こぎれいであった。ここは日本人も中国人も泊まる中級レベルである。

大阪大学の博士課程にいた時、学部一般教育課程のクラスで1年生と一緒に朝鮮語を学んだ。韓流ブームの前で、受講生は20名に満たなかった。韓国の機械工業を研究するのに、ハングルで書かれた韓国語文献を読みたかったから受講した。文法の簡単なインドネシア語と、語順が日本語と同じ韓国語が、日本人にとって最も学びやすい外国語だといわ

れている。インドネシア語の日常会話は確かに覚えやすいが、文章を読むのはいささか難しい。日本人の初学者向けの辞書がないのもつらい。

韓国語はハングルという独特の文字を発音できるようになると、漢字起源の単語は日本語の発音と似ているので、予想がつきやすい。かつて韓国では、日本語の漢字かな混じり文のように漢字とハングルが併用されていた。この時期の文献はずいぶん読みやすい。ところが現在ではすべてハングル表記である。これは初級者には相当辛く、どこに自分の知りたい情報が書かれているかの見当をつけるのさえ難しい。辞書を片っ端から引きまくらざるをえなくなる。しかし、初学者にたいへん使いやすい朝鮮語辞典が出ており、辞書を使えば、韓国語は的確に読み取れる。

韓国語文献は千葉にある日本貿易振興協会アジア経済研究所の図書館にたくさん所蔵されているので、手始めにそこで資料収集した。それらに目を通してから、現地での資料調査を計画する。まず、ソウルの主要図書館の蔵書をインターネットで調べた。ハングル用のキーボードを持っていないので、日本語のキーボードにハングルを書き込んで使った。参考になりそうな本の書名、著者名、蔵書番号を調べ、所蔵する図書館の開館日、開館時間、館内の配置、複写機の配置など、図書館のホームページでわかることは日本で調べておく。

国立中央図書館と延世大学図書館に資料が豊富なことがわかったので、10日と14日に前者、11、13、18日に後者で資料収集した。海外の図書館も、パスポートか、大学からの紹介状があれば、利用できる。開館時間に入館して夕方まで入り浸る。開架図書なら書架で手に取り、書庫内図書ならカードに記入して出してもらう。閲覧席に持っていって、必要な部分を決めて栞をはさみ、コピーするという作業の繰り返しである。事前に所在を知りえた資料のほか、開架図書では目当ての本が配架されている周辺の資料も見てみる。根気のいる作業を中断して、学食で現地の学生と同じ昼ごはんを食べるのは楽しみだった。

韓国有数の延世大学
韓国有数の延世大学

高麗大学の学食メニュー
高麗大学の学食メニュー

12日には、高麗大学に行った。ここにはイギリスの大学と見まがうばかりの校舎があった。日本語をしゃべる集団に出くわした。韓国語短期集中講座を受講しに来た日本人学生だった。キャンパスには蝉が鳴いていた。日本のミンミンゼミとツクツクボウシの中間くらいの大きさだが、鳴き方は単調で、日本の蝉の方が芸が細かい(つづく)。

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