アトリエトーク

旅と学びのコラム 「アジア、ものづくり、町工場」 第7回

平成25年4月16日

新しき糧YOSHI <ペンネーム>

2009年から2010年にかけての冬休みに台湾に出かけた。現地の機械工業に関する調査のためである。勤務している大学での授業が終わった翌日12月23日に関西国際空港をたち、授業が始まる前日1月5日に帰国した。

台湾に旅するのは4回目である。最初は1978年、大学2年の春休み、マレーシアとタイに行くのに中華航空を使ったので、ついでに拠点都市台北で数泊した。福岡発の中華航空機ボーイング707は現在の桃園国際空港ではなく、台北市内の松山空港に着いた。当時はインターネットがなく、ホテルを予約せずに行った。空港で日本語の話せる台湾の人に声をかけられ、その人にホテルを紹介された。「あなたを信用してもいいの?」と尋ねた記憶がある。ホテルまで送ってもらいながら、車中で「悪意のある人間がほんとうのことを言うはずがないのに。」と思っていた。幸いこの時はトラブルに巻き込まれず、予算内の安ホテルに泊まれた。でも、以後はいずこの空港でも、たむろしている連中に声をかけられないように、そそくさとバス停に向かうことにしている。

日本が台湾支配の中枢にしていた旧台湾総督府の建物を流用した総統府に、「大陸反攻」というスローガンが大書され、その前に軍用トラックがたくさん並んでいたのを覚えている。当時の中華民国政府は大陸を共産党から奪還するんだというポーズをとり続けていたのである。

2回目の訪台は1980年代の後半で、機械製造工場の調査のためであった。当時、僕は会社勤めの身の上だったが、余暇に研究活動をしていた。台湾中部の機械工場集積地台中にある工作機械メーカーに工場見学を申し入れたら、社長から快諾の返事があったので出かけた。正月休みで帰国していた日本留学中の社長令息に日本語で工場を案内してもらった。

その後、工業団地内にある工場を覗いてみた。1社には拒絶されたが、別の町工場は気安く受け入れてくれて、創業した経緯や販路などを教えてくれた。職業訓練学校があったので、アポなしで訪問したら、ここも校内を案内してくれ、学食で昼食をごちそうになった。

台北から台中へは電車で行き、台中では安い教員宿舎に泊まった。台湾には夜店が多い。晩御飯はこうした夜店で食べた。日本では夜店ということばはもはや聞かれない。深夜営業しているコンビニも夜店といえるのかもしれないが、夜店というとやはり屋台のイメージである。漆黒の闇が存在した時代、明かりが貴重だった時代でこそ、夜店は夜店のイメージを帯びるのだと思う。

台中からの帰りは、高速バスを利用した。僕の席は窓側で、隣におばちゃんが座った。バスが急ブレーキをかけた時、前席に座っている人が窓際に置いていた紙コップがこちらにすべってきて倒れ、僕に水がかかった。あれあれとハンカチで拭いていたら、隣のおばちゃんが日本語で「日本人ですか?」と尋ねてきた。彼女が言うには、こういう場合、台湾の人なら猛烈に抗議するのに、腹を立てない僕の様子を見て、日本人なのかもしれない

と思ったそうだ。彼女は台湾が日本であった時代に、本土の家庭でお手伝いさんをしていたそうで、日本人と台湾人の気質の違いを知っているのだった。

1990年は僕の最初の論文が活字になった年であるが、その初稿を書き改めるために、正月に急遽、訪台して、資料をかき集めてきた。飛行機を予約したのが遅く、満席だったので、空席待ちしていたら、年明けにチケットが手に入り、日本アジア航空で行った。エコノミークラスの料金だったが、ビジネスクラスのチケットを旅行代理店で渡された。ところが出発当日、大阪国際(伊丹)空港に行くと、航空会社はエグゼクティブ(ファースト)クラスの搭乗券をくれた。エグゼクティブクラスしか空いてないのだけれど、空席で飛ぶより、エコノミークラスに乗りたい客に席を回した方がまし、という考えだろう。最初で最後のファーストクラス体験であった。ボーイング747の2階席で、機内食もちゃんと陶器に盛られた懐石料理であった。誰がどう見たってエグゼクティブでないことは丸わかりだったけど、気分はよかった。

それ以来、20年振りの台湾である。今回の目的は現地企業A社と日系企業B社の訪問調査、C大学の先生との面談、図書館などでの資料収集である。訪問先のアポは取れていた。キャセイパシフィック航空565便ボーイング777は昼過ぎに桃園空港に着き、日本の技術で作られた台湾の新幹線で台南まで南下する。台湾西部は青々とした田園地帯が続き、遥か東方に山並みが見える。(つづく)

関西国際空港から台北へ
関西国際空港から台北へ

台湾新幹線の切符(約3000円)
台湾新幹線の切符(約3000円)

JRのような新幹線の車内
JRのような新幹線の車内

新幹線から見る田園風景
新幹線から見る田園風景

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