アトリエトーク

映画の館『スポポン館』 第49回

平成29年9月

館主 平 均(たいら ひとし) <ペンネーム>

皆さん、暑さに負けず今年の夏を無事過ごすことが出来たでしょうか。今夏は7月が猛烈に暑くて、8月に入ると少し和らいだ感じでしたね。まあ、暑い暑いと言っているうちにすぐ寒くなって来るのが北海道の気候なので、油断して寝冷えなどしないよう、体調管理はしっかりしましょう。

では、今回は最近観に行ったこの映画から始めます。『ジーサンズ はじめての強盗』(Going In Style 2017 アメリカ)。(←ジーサンズってジジィの複数のことかよ。はじめての強盗ってはじめてのお遣いじゃないのかよ。なんだこのふざけた題名は!)と思う人が多いでしょう。でも、この邦題、映画の内容をズバリ表した分かりやすい題名なのですよ。

工場勤務の会社生活を引退して悠々自適の隠居暮らしを送っていた爺さん三人組でしたが、勤めていた会社が業績不振に陥り、その会社からの企業年金が凍結されてしまいます。老後の住宅を取得するため銀行の甘い誘いに乗って住宅ローン融資を受けていましたが、その返済が滞り出すと銀行の態度は一変し、家を取り上げられることになってしまいます。泣きっ面に蜂の状況に追い込まれてしまった爺さんたち。さて、どうする?ということで、題名通り強盗して銀行から金を奪うのでありました。でも、いくらお金に困ったからと言ってそれはダメだよね、と普通は思うのですが、企業年金凍結の裏には件の銀行が関係しており、この銀行め!懲らしめてやる!という心意気を感じさせる作りになっているところがいいのです。すんなりと爺さんたちに感情移入出来ます。

3人の老人をマイケル・ケイン、モーガン・フリーマン、アラン・アーキンという大ベテラン俳優が余裕綽々、飄々と演じており、安心して観ていられます。違和感なく年金生活を送る爺さんになり切る演技力には脱帽です。若い皆さんには、マイケル・ケインはバットマンの執事を演じた人、モーガン・フリーマンはマンデラ大統領を演じた人、アラン・アーキンって誰だっけ?てな感じだと思いますが。そうそう、アン・マーグレットも登場し、お婆ちゃんになってもキュートでした。

老人が主役の映画にもかかわらず、コミカルかつ軽快なテンポで物語が進められ、鑑賞後は気分爽快、ほっこりした気持ちになること間違いなし。そして、爺さんが銀行強盗やったら面白いんじゃない?という単純な話ではなく、年金問題、住宅ローン問題など、老後の深刻な問題を採り上げてちょっぴり考えさせられる社会風刺劇になっているところもナイスです。

次はジーサンズ繋がりで、マイケル・ケイン主演の『狼たちの処刑台』(Harry Brown 2009 イギリス)を紹介します。

この作品でもマイケル・ケインは会社を退職したご隠居さんを演じています。ロンドンの寂れて荒んだある町に住む老人。愛する奥さんが亡くなり、話相手と言えば同僚だった親友のみですが、それでも慎ましやかに静かな余生を過ごしていました。ところが、近所に若い不良連中がうろつき始め、ヤクの取引を行ったり、道行く人を脅してカツアゲしたり、我が物顔で町を暴力で支配していきます。これらの描写が結構リアルです。静かな生活を続けるため、主人公は敢えて彼らに関わらないようにするのですが、親友の爺さんが彼らに抵抗した結果、無残にも殺されてしまいます。そこで遂に主人公の堪忍袋の緒が切れ、チンピラどもを片付けていきます。普通の爺さんではなかなか無理かもしれませんが、彼が務めていたのはイギリスの諜報機関で、スパイ活動や破壊工作を行っていたエリート諜報員なのでした。若さだけでは勝てないよ、チンピラども。

耐えて耐えて耐え忍んだ主人公が怒りを爆発させて悪い奴らをやっつける映画にはカタルシスを感じます。本作も間違いなくそうではあるのですが、それに、殺しも行う稼業から足を洗った男が再び殺しを行わなくてはならない心情、復讐を果たしても友は還らない現実が加わり、哀しみを帯びた余韻を漂わせ、非常に心に沁みる作品になっています。さらに、マイケル・ケインが過去の作品『国際諜報局』『ハリーの危機脱出』『ドラブル』『第四の核』等々で演じた諜報員の姿が本作の主人公にダブり、この映画に重量感を与えています。こんな役を貰うと役者冥利に尽きるだろうな。

次はモーガン・フリーマンが出ている『RED/レッド』(Red 2010 アメリカ)。これは、引退した諜報員たちが組織の陰謀に巻き込まれて大暴れする楽しい痛快アクション映画で、ブルース・ウィリス、ジョン・マルコビッチ、ヘレン・ミレン、そしてモーガン・フリーマンなど、ベテラン俳優演じる退役諜報員たちがとにかく派手に銃をぶっ放します。まさにエンターテインメント!むしゃくしゃしている時に観ると、スッキリ爽快な気分になること間違いなし。勉強合間の気分転換にどうぞ。

最後にアラン・アーキンの作品も紹介しないと片手落ち。それでは『リトル・ミス・サンシャイン』(Little Miss Sunshine 2006 アメリカ)を。子供美人コンテストに出場する女の子を乗せて走る一台のワゴン車。そこにはスケベで下品な爺さんを始め、どこかちょっと変だけど愛すべき親子三代が乗っていました。その道中でいろいろな事件が発生し、果たして娘は無事コンテストに出場出来るのか?という、楽しくて心がほっこりする映画です。家族みんなで観るとよりいいと思います。アラン・アーキンは勿論、エッチな爺さんです!

いやはや、今回は爺さんが活躍する映画特集になりました。私も年齢がそちらに近くなって来たせいか、ついつい力が入ってしまいます。老人を舐めんなよ、若造!でも、年金掛金はちゃんと払ってね。我々の年金支給が無くなってしまうので。

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