アトリエトーク

映画の館『スポポン館』 第45回

平成29年2月

館主 平 均(たいら ひとし) <ペンネーム>

入学試験真っ最中の受験生の方も多い今日この頃でしょうか。受験生の方は、試験が終わってからゆっくりたっぷり映画を観てくださいね。あと少しの辛抱です。

さて今回は前回に引き続き、昨年私が劇場で観た映画の感想です。15作品目からになります。

15. 家族はつらいよ (2016 日本)

『男はつらいよ』シリーズの山田洋二監督が、じいさんばあさんの離婚話を中心に描く家族のドタバタ騒動劇です。笑って泣かせる人情喜劇が得意な監督が、橋爪功ら芸達者な俳優を揃えて軽快に悲喜劇を展開して行きます。全体として散漫な印象を受けるのは、小気味いいお笑い場面が少ないからかもしれません。続編が今年公開されるそうなので、おおいに笑わせてくれることを期待しています。

16. ティファニーで朝食を (1961 アメリカ)

オードリー・ヘプバーンの代表作の1本にして、ロマンティック・コメディの名作です。昔観た時はキュートでお洒落な作品だと思っただけでしたが、今回久し振りに観直して、オードリー演じるホリーは意外に勝手気儘で、人に縛られない性格の女性だと気付きました。私ぐらいの年齢になると、彼女に捨てられた夫がとてもいい人なのに可哀そうだなと思うのであります。映画は観る人の年齢によって、誰に感情移入するか変わって来るのだと改めて分かりました。

17. ルーム (2015 アメリカ)

誘拐拉致された女性が犯人の子供を産み、閉じ込められた一室で何年もの間、子供と暮らしているというショッキングな設定から始まる映画です。でもこの作品はその過程を描くのがテーマではなく、そこから解放された親子を周りの者は何事もなく受け入れることが出来るか、という問いを投げかけています。親は二人をすんなり受け入れられるのか、第三者は色眼鏡で彼女たちを見るのではないか。重いテーマです。

18. スポットライト 世紀のスクープ (2015 アメリカ)

キリスト教カトリック教会の神父たちによる信者の子供への性的虐待をスクープした、ボストン・グローブ新聞社の記者たちの、歪んだ宗教的権威との闘いを描いた実話ものです。組織ぐるみで隠蔽されていた虐待が次々と暴かれていく度、神父という立場を利用した卑劣な行いに、怒りを通り越して悲しみが湧き上がります。それ故、困難にぶち当たっても真実を追求しようとする記者魂にますます心打たれます。

19. ボーダーライン (2015 アメリカ)

メキシコの麻薬組織壊滅のため、麻薬王暗殺作戦を展開するアメリカの特殊チームに入ったFBI捜査官が体験する混沌とした世界を、我々鑑賞者が追体験する映画です。誰を、そして何を信じればいいのか。また、正義とは何なのかも分からなくなる作戦です。結局は、悪をもって悪を征す、ということで、アメリカにとって都合のいい麻薬王をボスに据えます。これが一番の目的であれば、麻薬撲滅は難しいのでしょうか。

20. レヴェナント 蘇えりし者 (2015 アメリカ)

西部開拓時代の辺境の地で、息子を殺し、自分を半殺し状態で冬の原野に置き去りにした奴を執念で追い詰める男の復習譚です。何が凄いって、その男を演じるレオナルド・ディカプリオの鬼気迫る演技が只者ではありません。熊には襲われ、冷たい川や泥に浸かり、厳寒の荒野を彷徨い、まるでボロ雑巾のようになりながらも仇敵を追う姿には感動を覚えます。アカデミー賞を貰ったのも納得です。

21. 64-ロクヨン-前編 (2016 日本)

64って何のこっちゃいなと思っていたら、昭和64年のことだったのですね。たった1週間しかなかった昭和の最後の年です。その時に起こった幼女誘拐殺人事件が未解決のまま、時効まであと1年、というところで様々な歯車が動き始めます。被害者の親の苦悶、当時捜査に関係していた警察関係者の苦悩、警察の番記者の偏った正義感、警察内部の隠蔽体質や縦割り組織の弊害、等々、見応えたっぷりです。後編が楽しみ。

22. マネーモンスター (2016 アメリカ)

株の投資を面白可笑しく演出したテレビの金融娯楽番組が生放送中に一人の青年によってハイジャックされてしまいます。彼は番組を見てある会社に投資した結果、大損して人生が滅茶苦茶になってしまったのでした。監督は既に何本か監督作があるジョディ・フォスター。ハイジャックの緊張感を、犯人と番組の司会者、ディレクターたちとのやり取りで上手く出しています。小粒ながら引き締まった拾い物です。

23. 10クローバーフィールド・レーン (2016 アメリカ)

題名は、クローバーフィールド通り10番地という地名です。片田舎で交通事故に遭った女性が目覚めると、ある部屋に監禁されていた。何故なのか。ここから謎が謎を呼び、この家の主人は正気なのか狂っているのか、まさに先の読めない怒涛の展開が待っています。物語はほぼ地下シェルターで展開され、その閉塞感も相まって独特のムードが醸し出されています。これ以上は話したくても話せません。とにかく、予備知識無しで観てください。おススメです。

24. 64-ロクヨン-後編 (2016 日本)

ああ、やはりと言いましょうか、残念と言いましょうか、どうして後編はつまらなくなってしまうのでしょうか。事件を収束させなければいけないので、どうしても淡々とお話が進んでしまうのですね。よって、前半であれだけ盛り上がっていた色々な確執がすんなりと解決してしまった印象を受けます。少し長くなってもいいから、1本の作品とした方がよかったと思います。佐藤浩市の熱演は素晴らしかったです。

25. ノック・ノック (2015 チリ・アメリカ)

一昨年の『ジョン・ウィック』や前回書いた『砂上の法廷』で颯爽とした姿を披露していたキアヌー・リーブスが、よくここまで演じてくれましたと感心するほど情けない姿を晒します。家族円満の実直なご主人が、一人で留守番中、家にやって来た悪女たちに翻弄され、人生をボロボロにされる姿を描いた、現実に起こり得る一種のホラー映画です。甘い誘惑に乗ってしまうと取り返しのつかないことになる、という戒めでもあります。くわばらくわばら。

26. アウトバーン (2016 イギリス・ドイツ)

犯罪者が足を洗おうと思いながらも、難病である愛する彼女の手術費用を稼ぐために危険な仕事を引き受ける、というよくあるパターンの映画です。題名から、カー・アクションたっぷりの作品かと思っていたのですが、期待したほど暴走シーンは多くありませんでした。アウトバーンでのカー・チェイス・シーンが迫力たっぷりで素晴らしかっただけに、もっとカー・アクションを観たかったです。

27. 日本で一番悪い奴ら (2016 日本)

我らが北海道警察で実際にあった事件を映画化した作品です。市民を守るという正義感を持って警察官になった青年が、検挙率至上主義に対応すべく、どんどん不正に手を染めて行き、最後にはヤク中になってしまう転落人生を、時として面白可笑しく、またシニカルに描いています。今も時々、道警の不祥事が報道されますが、そういうことをする警察官は、ごく一部の人であらんことを願います。

28. インデペンデンス・デイ:リサージェンス (2016 アメリカ)

20年前に公開されて大ヒットした『インデペンデンス・デイ』の続編です。前作も勿論、劇場で鑑賞しましたが、街を覆い尽くす桁外れの宇宙船のデカさには圧倒されたものです。今回は地上の建造物をことごとく吸い上げる攻撃を仕掛けてくる宇宙人ですが、話があまりにもデカ過ぎて絵空事のように思われ、緊張感が途切れてしまいました。地球を壊すのが大好きなローランド・エメリッヒ監督も少々行き詰った感じです。

29. ロスト・バケーション (2016 アメリカ)

人気のない浜辺でサーフィンを楽しんでいた女性が鮫に襲われた。彼女はこの絶体絶命のピンチを脱出することが出来るのか、というサバイバル・サスペンスです。海中の小さな岩礁に身を寄せる女性と鮫との駆け引きが緊張感たっぷりに描かれています。『ジョーズ』の亜流品は沢山ありますが、鮫との戦いを最後までこんなにハラハラしながら観たのは久し振りです。まだまだ動物パニック映画は廃れません。

30. ターザン:REBORN (2016 アメリカ)

ジャングルの王として有名なターザンが、一度人間社会に復帰した後、さらわれた妻を助け出すため再びジャングルに戻る、という設定が面白いアクション・アドベンチャー作品に仕上がっています。ジャングルに戻ってからの動物たちとの交信も.くささがなく、すんなり受け入れることが出来ます。ターザン役のアレクサンダー・スカーシュゴードの素晴らしい肉体と端正な佇まいが作品を大きく支えています。

31. ハイ・ライズ (2016 イギリス)

上階は貴族や金持ち階級、下階は一般庶民という階級格差がはっきりとした40階建てマンションを舞台に物語が繰り広げられる、階級社会を皮肉った一種の寓話です。徐々に上階と下階の住人が入り乱れ、遂には暴力沙汰にまで発展し、マンションは混沌とした世界に突入してしまいます。日本人なら金持ちと貧乏人の格差ですが、現代のイギリスに今も尚残る階級格差が覗けて面白いです。

32. ポセイドン・アドベンチャー (1972 アメリカ)

テレビ放送やビデオを含めると数回観ていますが、何度観ても本作は素晴らしいです。大津波でひっくり返った豪華客船から脱出を試みる乗客たちのサバイバルをスペクタクルに、時折りユーモラスにかつサスペンスたっぷりと、そして感動的に描いた傑作です。人物描写がしっかりしているからだと思います。決してCGでは出せない手作り感の温もりをも感じさせてくれる作品です。

あと10数本ありますので今回はこの辺にしておきます。次回で終わりますのでお付き合いください。受験生もそうでない人も風邪を引いたりしないよう、体調管理には十分気を付けてくださいね。

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