アトリエトーク

映画の館『スポポン館』 第44回

平成28年12月

館主 平 均(たいら ひとし) <ペンネーム>

なんだかんだで、もう1年が経とうとしています。今年1年、しっかり勉強できたと思う人もいれば、ちょっとサボったかなと思う人もいることでしょう。新年を迎え、計画通り勉強できた人はその調子でますますパワーアップし、やり足らなかった人は新しい気持ちでもって挽回しましょう。

さて、今回は例年の如く、2016年に私が劇場で観た作品を一挙紹介します。洋邦織り交ぜ、観た順で紹介します。

① マイ・ファニー・レディ (2014 アメリカ)

夜の商売をしているキュートな女の子が、ひょんなことから舞台ミュージカルのオーディションを受けて舞台監督に気に入られ、そのミュージカルに出演することになります。ミュージカルの花形は舞台監督の奥さんで、監督は奥さんの尻に敷かれっ放しです。そんなもんだから、採用した女の子がだんだんと好きになっていき、主役も彼女にしようと思い始めます。でも、恐い奥さんがいるしなあ…。というお話を軽妙洒脱に面白おかしく描いています。女の子役のデカ鼻女優、イモージェン・プーツが役柄そのものの可愛らしさでした。

② クリード チャンプを継ぐ男 (2015 アメリカ)

あのロッキーの最大のライバルにして親友であるアポロ・クリードの遺児がロッキーと対決!ではなく、ロッキーにコーチを依頼し、チャンピオンと戦うお話です。さすがにロッキーといえども、もうボクシングの試合は無理ですからね。おまけに病魔が体を蝕み始めていることも分かり、最後までコーチングできるか観ている者をヒヤヒヤさせます。それにしても、スタローンはロッキーを40年も演じています。いくら自分が創造した人物だと言え、こんなに長続きするとは思っていなかったでしょう。役者冥利に尽きますね。物語はまだ続きそうなので、映画が撮れなくなるまで演じてもらいたいです。

③ 杉原千畝 スギハラチウネ (2015 日本)

第二次世界大戦時にヨーロッパで数千のユダヤ人に対して日本のビザを発行し、多くの人命を救った外交官の実話です。“日本のシンドラー”とも言われている人物ですが、近年まで、我々日本人にとってはその存在が殆ど知られていませんでした。日独伊の三国同盟を重んじる日本政府の命令に逆らってユダヤ人にビザを発行していたからです。

まさに命を懸けたビザ発行です。このような人が日本にいたことを誇りに思うと共に、その行為を封印しようとした日本政府への憤りも感じます。彼を知らない人は是非観てください。

④ ブラック・スキャンダル (2015 アメリカ)

アメリカに実在したギャングスターの実録ものです。大人気のジョニー・デップがいつもながらの凝ったメーキャップで禿げ上がって凄味のあるおやじを熱演しています。彼の弟である議員役がテレビ『シャーロック』で人気のベネディクト・カンバーバッチです。本当は兄貴の悪事に加担しているのかそうではないのかはっきりしない男を巧く演じています。それに彼らの知人である出世欲に憑りつかれた刑事も絡み、ギャング・政界・警察の癒着に発展します。このギャング本人は今現在、捕まって刑務所にいるそうですが、ジョニー・デップが自分を演じてくれたら満足でしょうね。

⑤ 俳優 亀岡拓次 (2015 日本)

今や北海道が生んだ大スターとなった大泉洋に続くのはこの俺だ、とばかりに勢いづいているチーム・ナックスの中で、頭抜きん出ているのがヤスケンこと安田顕ですね。彼が亀岡拓次というベテラン脇役俳優に扮し、映画・演劇でいろいろな役を演じて様々な表情を見せています。主役級ではないので顔は売れていないが、確かな演技力で周りからの信頼も厚い人物をヤスケンが飄々と演じており、どこかに素の彼が含まれているんだろうなと思います。その演技と素の境目を見つけるのもこの映画の楽しみ方の一つでしょう。

⑥ 人生の約束 (2015 日本)

亡き友とのある約束を果たすべく、都会で会社を立ち上げて成功し社長になった男が、故郷の富山県射水市に帰省するところから物語が始まります。この男はちょっと鼻持ちならない奴で、人の気持ちを理解しようとしないところがあり、会社においても独裁者のように振る舞い、社員ともギクシャクした関係になっています。その彼が故郷の人々との関わりや町を挙げてのお祭りを通し、少しずつ変化していきます。その過程をじっくり落ち着いた丁寧な演出で描いているのに好感が持て、人間、突っ張ってばかりでは疲れるだけだなと思わせてくれます。

⑦ パディントン (2014 イギリス)

私は全然知らなかったのですが、世界的な人気児童小説の主人公である喋る熊“パディントン”の映画化です。彼がペルーの奥深いジャングルからロンドンに出て来て、てんやわんやの騒動を繰り広げます。たまたま彼を家族の一員として迎えることになったある一家の優しさが嬉しいです。そして、パディントン自身が紳士的で真面目な性格だという設定がよく、それがまた笑いを生み出す可笑しさにもなっています。CGで作られたパディントンと実写の俳優たちとの絡みも全く違和感なく、とてもよく出来たファミリー・ムービーになっています。家族揃ってニコニコしながらご覧ください。

⑧ さらば あぶない刑事 (2015 日本)

1986年のテレビ・シリーズ開始から30年、横浜港署で活躍して来たタカとユージ(タカ&トシではありません)の刑事コンビも定年退職間近で手持ちぶたさ。そんな折、凶悪事件発生。周りの心配を気に掛けることなく、嬉々として張り切る二人なのでした。とまあ、いつものようにキザな調子で暴れまくる二人の活躍に拍手喝采です。主演の舘ひろしと柴田恭平は言うに及ばず、仲村トオルや浅野温子らのレギュラー陣もノリノリで楽しんでいて、その楽しさ嬉しさがこちらに伝わって来ます。みんな“あぶ刑事(デカ)”が好きなんやなあ。

⑨ 残穢 -住んではいけない部屋- (2015 日本)

人が自殺したり殺されたりした部屋や家、所謂、事故物件に住むのはちょっと勇気がいりますね。やはり、そういう所に住めば不吉な何かが蠢き始めるのです。そう、映画では必ず。本作も、マンションの一室を発端に怪異現象が起こるのですが、それが建物全体に広がり、そしてその土地に纏わる過去の物語に繋がる展開になります。恨みを持った人の怨念はいつまでも続くのでしょうか。早く成仏して欲しいと思わざるを得ません。皆さんが住んでいる部屋や家、土地の歴史を調べた方がいいかもしれませんよ。

⑩ マネー・ショート 華麗なる大逆転 (2015 アメリカ)

10年ほど前に起きて全世界的な金融恐慌を引き起こしたリーマン・ショックの裏で、いい加減な株取引を行っていた証券会社を出し抜いて大金を手に入れていた金融マンたちがいたそうで、本作はその話を映画化した実話です。浮かれている周りの雰囲気に流されず、冷静に先を読む者が富を得ることが出来るのだと分かります。金融の業界用語がポンポン出て来ますが、その用語を、映画を観ている観客に向かって解説するという、役に立つスタイルも取り入れています。さあ、デイ・トレーダーの皆さん、この映画を観て勉強しましょう。

⑪ ヘイトフル・エイト (2015 アメリカ)

クエンティン・タランティーノ監督の西部劇、と言っても、前作『ジャンゴ』のような作品ではなく、ワイオミングの雪深い山に一軒だけポツンとある山小屋を舞台に展開する密室ミステリー劇なのでした。小屋に集まる連中が一癖も二癖も、ついでに三癖もありそうな嘘つきな奴らばかりで、何が狙いでそこにやって来たのか謎が深まるばかりです。物語の中断まではおしゃべりが続き、クライマックスはグロくてえげつない撃ち合いが始まるという、タランティーノ節が楽しめます。本作で、エンニオ・モリコーネがアカデミー作曲賞を受賞!でも、同じ西部劇なら、『続・夕陽のガンマン』、『ウエスタン』、『夕陽のギャングたち』のどれかで獲って欲しかったな。

⑫ エヴェレスト 神々の山嶺 (2016 日本)

過去に自分との登山中に友人を亡くしてしまった孤高の登山家と、彼を追いかける山岳写真家がいがみ合いながらもエベレスト登頂に挑戦する様を描いた山岳映画です。洋画では時々製作されますが、邦画でこれだけエベレストで撮影された作品は少ないと思います。それだけに、エベレスト登山の過酷さがスクリーンからあまり伝わって来ないのが惜しまれます。また、登山家役の阿部寛はいいとして、カメラマン役の岡田准一がエベレストに登るような山岳写真家に見えないところが痛い。このタイプの映画はリアリティがないといけません。

⑬ オデッセイ (2015 アメリカ)

宇宙でひとりぼっち、というテーマの映画です。今回は火星探査にやって来た科学者が砂嵐による事故で一人取り残されてしまいます。生きていくためには水や食料が無くてなりません。探査船に備蓄された分だけではいつか底が付きます。ならばと、どうにかして水を集める工夫をし、野菜を栽培し始めます。このように、生きていくために障害を一つ一つ乗り越えて行く主人公の姿が描かれ、人間、何事も諦めちゃいかんのだと思わせ、勇気付けてくれます。ユーモアを忘れない主人公をマット・デーモンが好演しており、ラストの救出シーンは感動的です。

⑭ 砂上の法廷 (2016 アメリカ)

大富豪が自宅で殺され、彼の息子が容疑者として捕まり、裁判が始まります。息子は黙して語らず。彼を担当することになったキアヌー・リーブス演じる弁護士は、果たして真実を見出し、息子を弁護することが出来るのか、という法廷ミステリーです。証言に立ついろいろな人の回想シーンや思い出し映像を挟み込みながら、徐々に真実に近づく推理の世界へ誘ってくれます。このジャンルの映画の結末を言うのはルール違反ですから言えませんが、ええっ!と驚くこと請け合いです。それからもう一つ、レネー・ゼルウェガーの変わりっぷりにはビックリ。最後まで彼女だとは分かりませんでした。

まだまだ続きますので今回はこの辺にしておきます。皆さんも映画を観たら、手帳にでも感想を書き留めておけばいかがですか。記録・日記代わりにもなりますし、映画を再見した時に、昔はこんなこと思っていたんだな、とか、まさにその通り!と自分に頷くかもしれませんよ。

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