アトリエトーク

映画の館『スポポン館』 第43回

平成28年11月

館主 平 均(たいら ひとし) <ペンネーム>

いよいよ冬本番の到来。外は寒いですが、勉強の熱気で皆さんの部屋、いや、皆さんの頭の中はホットになっているに違いありません。そこで、映画を観ながら少しクールダウンをしましょうか。

では、今年の邦画の話題作、『シン・ゴジラ』(2016 日本)から始めましょう。

ゴジラと言えば、日本人なら誰もが知っているであろう超人気怪獣ですね。60年前の第1作から数多くのゴジラ映画が作られて人気を博しており、2年前にはハリウッド版の『GODZILLAゴジラ』も公開されました。この作品は原子力発電所の放射能漏れ危機も描き、アメリカ映画でありながら東日本大震災の影響を色濃く反映させたものでした。もともと元祖『ゴジラ』(1954 日本)で、アメリカの水爆実験の影響を受けて生まれた怪物がゴジラだと描いていましたので、ゴジラは放射能の恐怖とは切っても切れない存在であるということが根本にはあるのです。日本は核爆弾の恐怖、アメリカは原発の恐怖ということで、少しニュアンスは違っていますけどね。

そこで今回の『シン・ゴジラ』ですが、今度のゴジラはとにかくデカくて強い。放射能をまき散らしながら幼虫みたいな姿から高層ビルよりも遥かにデカい姿になるまで、3種の変態を見せてくれます。この試みは初めてかな。新鮮に感じました。そして何より、こんなに徹底的に日本を破壊してしまうと、もはやゴジラが単なる怪獣というより、天が日本人に与えた災厄をもたらす破壊神ではないかとさえ思えて来ます。

阪神淡路大震災や東日本大震災での災害や人災が本作に多大な影響を与えているのは無論のこと、アメリカがゴジラをやっつけるために核爆弾を使おうとするところは、実際に唯一の被爆国である日本、そして使用国であるアメリカを象徴した構成になっています。

何度も形を変えて延々行われる日本の首脳陣の会議や打ち合わせ、役に立たない意見しか出せない学者連中、しゃしゃり出て来るアメリカ等、現在の日本の政治を相当皮肉った作りになっており、結局、ゴジラを封じ込める案を考え出したのも、表舞台には立たず不眠不休で頑張る者たちでした。そしてその作戦を実行するために日本が一丸となり、犠牲者も出しながら遂行して行く人々の姿には涙を禁じえません。かつて『日本沈没』では、地殻変動のために日本が海溝に飲まれて水没してしまう危機に晒され、ある科学者のお蔭で何とか助かりました。今回は、ゴジラを倒すことに携わった多くの名もなき人々のお蔭で助かりました。まさに日本再生です。現在の日本の中心である首都圏が徹底的に破壊されたことが、より一層その思いを強くさせます。

幕開けから畳み掛けるようにテンポよく、かつリアルな描写でグイグイ引き込まれ、娯楽映画として非常に楽しめました。それと同時にいろいろと考えさせられる映画でした。

ここまで来るともはや怪獣映画とは言えない作品になっています。60年代、70年代に数多く作られていたゴジラ映画とは随分作風が変わったものです。ゴジラをヒーローとして描いていた映画がちょっぴり懐かしくもありますが、元祖ゴジラの人間への怒り、恐怖を見事に復活させたゴジラ映画だと思います。音楽も旧作の音源を要所要所で使用しており、その思いを一層強くさせます。

これまで観たゴジラ映画の中で一番印象に残っているのが『ゴジラ対ヘドラ』(1971 日本)です。公害怪獣ヘドラとは、その名の通り、ヘドロから生まれた、つまり人間が起こした公害によって生まれた怪獣なのです。ドロドロしていて気持ち悪~い。製作された当時は、工場から海への廃液垂れ流しによる海洋汚染や煙突からの有害煤煙による大気汚染で公害が問題となっていた時期でした。そこに現れたのがヘドラです。元祖ゴジラ同様、人間が自ら生み出した怪獣によって恐怖を味わう、という設定に惹かれたのだと思います。『シン・ゴジラ』が日本の危機管理の甘さが大震災での被害を大きくしたという現実を反映しているように、ここでは、公害に対する無知が災いをもたらすと警告しています。怪獣映画といえども、そこに込められたメッセージは重要です。

ゴジラのことを書いてきましたが、実のところ私は、花形ゴジラ派ではなく、ちょっとマイナーなガメラ派でありまして、子供時代に昭和ガメラ(1965年の『大怪獣ガメラ』から1971年の『ガメラ対深海怪獣ジグラ』までの7作品)をスクリーンで観て、動きののろまな亀さんが相手の怪獣に傷つけられ血を流しながら必死に戦う姿に熱いものを感じていました。宇宙怪獣バイラスや大悪獣ギロン等に、体をグサグサ突き刺され切り裂かれ、子供向けにも作られているのにも関わらず、今観ると結構な残酷描写がてんこ盛りです。そこからのガメラの反撃に心から声援を送ったものでした。

それから年月を経て時代は平成に入り、平成ガメラ3部作(1995年『ガメラ 大怪獣空中決戦』1996年『ガメラ2 レギオン襲来』1999年『ガメラ3 邪神覚醒』)が登場しました。昭和のガメラ映画が子供向けに重きを置いて作られていたのに対し、こちらは大人向けに作られた怪獣映画です。今回の『シン・ゴジラ』に通じるリアルな状況設定や破壊描写、自衛隊との戦闘、そして敵の怪獣との凄惨かつ血沸き肉躍る激闘等、中高生の皆さんが観ても大満足間違いなしの作品ばかりです。そして、怪獣映画から遠ざかってしまったお父さんお母さんも、いつの間にかきっとガメラを応援しているでしょう。その後、番外編のような作品が1作ありましたが、本格的なガメラ映画は作られていません。ゴジラが復活して大ヒットを飛ばしたことだし、ここらでガメラにも目覚めてもらいたいものです。ガメラ・ファンとして、ガメラ復活を切に願っています。

しまった!クールダウンのつもりが、怪獣映画ファンの私はついつい熱く語ってしまいました。怪獣映画が苦手だとおっしゃる方も是非ご覧ください。いろいろな楽しみ方が出来、様々な問題について考えさせられます。ガオーッ!

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