アトリエトーク

映画の館『スポポン館』 第42回

平成28年10月

館主 平 均(たいら ひとし) <ペンネーム>

あれだけ暑い日が続いていた9月だったのに、今月に入り峠などでは雪が降り始め、平地でもグンと寒くなって来ました。このまま冬に突入しそうで、さすが北海道の秋は短いですね。急激な気候の変わり目なので、皆さん、健康管理には十分注意しましょう。

さて今回は、特殊な状況に置かれながらも、人間の心の触れ合いを描いた映画をお送りしたいと思います。

最初は実話を基にした『レナードの朝』(Awakening 1990 アメリカ)です。

難病で30年間、少年の頃から昏睡状態にあった男レナードが、ある男性医師の努力の甲斐あって永い眠りから目を覚まします。その患者はもう中年のおっさんになっているのですが、ずっと寝ていたのですから心は思春期の時のままです。青年のように恋も経験します。医師との友情も育みます。しかし、残酷なことに、その目覚めは一過性のものであり、レナードはまた昏睡状態へと戻って行かなくてはならないのでした。

目覚めたレナードの戸惑い、喜び、淡い恋心、そしてまた眠りに就かなくてはならない深い悲しみを、心と体のアンバランスさも含め、ロバート・デ・ニーロが見事な演技で表現しています。彼を大いなる努力で目覚めさせ、しっかりとサポートし、友として見守っている医師に扮したロビン・ウィリアムズの包容力ある演技もまた素晴らしい。その二人が、生きていながらにして二度と会話出来なくなるであろうという別れを迎えるシーンには胸が詰まります。しかし、一時でも輝ける時間を持ち、生きててよかったなと感じられることこそが、幸せなのではないのかな、と思えます。

その『レナードの朝』が大いに影響を受けたと思われる映画が『まごころを君に』(Charly 1968 アメリカ)です。

これはダニエル・キースの原作『アルジャーノンに花束を』が有名ですので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。日本でテレビ化もされていましたね。

知的障害者のチャーリーという青年が、ある女性医師の努力の甲斐あって、どんどん知能が高くなり、いくらでも知識を吸収して並みの人より遥かに賢い天才のようになっていきます。しかし、最後に彼を待ち受けていたのは、元の知的障害者に戻ってしまうという悲しい結末でした。そうなることを知ってしまった時の彼の顔が忘れられません。

果たして、チャーリーは脳が覚醒しない方がよかったのかどうか。非常に難しい問いであると思いますが、彼がこれまで感じ得なかった新しい経験や喜びを一瞬でも持つことが出来たのは、幸せなことだったのではないでしょうか。

同じような作品が続きましたので、少し趣向を変えて戦争ドラマ『太平洋の地獄』(Hell In The Pacific 1968 アメリカ)とまいりましょう。

第二次世界大戦中の太平洋のある島で、日米の激戦が繰り広げられ、日本兵と米兵それぞれ1名ずつだけが生き残り、生死を賭けてぶつかり合います。相手をやっつけようとする丁々発止のやり取りが行われます。殺さなければ殺されるわけですから、最初はむさ苦しい男の殺伐とした戦いで息が詰まりそうになりますが、徐々に、お互い同じ人間同士ではないかという気持ちが生まれ、戦うことに意味があるのか、協力して生き延びようではないか、と考えるようになります。日本兵を演じるのが三船敏郎、米兵を演じるのはリー・マービン。この武骨な二人が心を通わせ始めるシーンがたまりません。心がほっこりして来ます。この二人のキャスティングに万々歳です。

しかし、戦争でそのような状況が続くわけがありません。悲しい結末が待っているのは想像つくでしょう。本作は、男たちが闘いの末に掴んだ人間同士の心の繋がりをも破壊してしまう戦争の愚かしさ残酷さを描いた反戦映画でもあります。

三船敏郎ついでに異色ウエスタン『レッド・サン』(Soleil Rouge 1971 仏・伊・西)もどうぞ。

江戸幕府の将軍からアメリカ大統領に友好の証として日本刀が献上されることになり、三船敏郎扮する日本の侍がアメリカ大陸横断鉄道に乗って大統領の元に参上することになります。しかし、その途中でアラン・ドロン扮する盗賊に列車強盗に遭い、大事な刀を盗られてしまいます。命に賭けてもその刀を取り戻さなければなりませんが、場所が異国の西部です。侍にとっては別世界にひとりぼっちです。そこへ現れたのがチャールズ・ブロンソン扮する風来坊のガンマン。始めは侍を変な格好をしたへなちょこ野郎と思って馬鹿にしていたのですが、だんだんと彼の魅力に取り付かれて盗賊を追う手助けをするようになります。三船演じる侍は寡黙で礼儀正しく、その上強いんだから惚れ惚れします。男の中の男であるブロンソンが惚れるのも無理ありません。侍とガンマン、二人の珍道中といっていいやりとりが実にいいムードを醸し出しているのです。

しかし、出会いがあれば別れがあり、二人の旅をずっと観ていたかったのですが、ラストは悲しい別れとなってしまいます。果たして、刀は大統領に届けられたのか、皆さんの目で見届けてください。それにしても、本作のアラン・ドロンは憎き悪人に徹していました。そして、三船はやはり世界のミフネでありました。

ということで、今回は4つの作品を紹介しました。ジャンルも作風も様々ですので、全く気に掛けていなかった映画の中に意外な拾い物があるかもですよ。短い秋の夜長、是非ご鑑賞ください。

コラム一覧へ戻る

▲ページ上部へ戻る