アトリエトーク

映画の館『スポポン館』 第41回

平成28年9月

館主 平 均(たいら ひとし) <ペンネーム>

今年の夏は北海道も暑かったですね。お盆が過ぎて9月に入っても気温がまだ30度近くになるなんて、ちょっと異常です。まあ、朝晩は過ごしやすくなっているので、そこは本州とは違うところです。学生の皆さんは新学期も始まっており、爽やかな秋を迎え、勉学にもますます精進されているでしょう。来春合格を目指す受験生は本番に向けて、いよいよエンジンがかかってきたのではないかと思います。

そんな皆さんのような高校生や中学生を主人公にした邦画に、とても素敵な作品があるので紹介したいと思います。

先ずは、ごく最近観た作品、『青空エール』(2016 日本)からいきましょう。原作は今や邦画の元ネタの宝庫である漫画です。特に青春物語には多いですね。この映画の原作は札幌の高校を舞台にした作品とのことで、映画も札幌市内にある高校を舞台に物語が展開します。

吹奏楽部に入って甲子園で高校野球の応援をするのが夢という、ちょっと内気な女の子と、野球で甲子園に出場するのが夢という、高校球児。この二人の同級生を軸に、高校時代の3年間が描かれます。女の子はこれまで吹奏楽の経験もなく、高校で初めてトランペットに接する全くの初心者。吹奏楽部は全道一を目指す名門。最初は仲間に認められなくて苦労しますが、さすが好きこそものの上手なり。音楽に取り組む真摯な姿に仲間も彼女を認め、3年時には大会のエントリー・メンバーに選ばれます。男の子は小学校から野球一筋、高校でも一目置かれるキャッチャーです。怪我をした先輩の代役で出場した道大会でエラーをしたり、自分が怪我をしたりで何度か挫折を味わいますが、トランペットの彼女のおかげでその都度立ち直ることができます。

観る前は、高校生男女の恋愛中心の物語かな、と思っていました。彼女と彼がだんだんと惹かれあっていく恋愛ものでもあるのですが、いろいろな場面で彼女が彼に送るメッセージが、言葉には出さない「頑張れ挫けるな」という応援メッセージなのですね。そこに胸を打たれました。そして、厳しさの裏に優しさを秘めた部活仲間やいつでも応援してくれる親友との大袈裟にならない友情の描き方にも感心しました。現実には意地悪で嫌な奴がいるのかもしれませんが、この映画を観て爽やかな涙を流せば気分もよくなりますよ。

次は中学校が舞台の『くちびるに歌を』(2014 日本)。原作は、アンジェラ・アキの歌『手紙~拝啓 十五の君へ~』をモチーフに書かれた小説です。

長崎県五島列島のある島に音楽の代用教員が赴任して来るところから物語が始まります。この女性教諭は才能あるピアニストらしく、顧問を引き継いだ合唱部の生徒たちは、素晴らしい先生に指導してもらえると思い大喜び。だけどこの先生、ピアノを弾かず、指導にも力入らずやる気無し。観ているこちらもイライラして来ます。実は彼女、愛する人を事故で失ったショックでピアノが弾けなくなっていたのです。

生徒たちとの確執を経て徐々に先生の心が開いていく過程がじっくり描かれ、観終わった後は爽やかな気分に浸れます。生徒も家庭ではそれぞれの悩みを抱えながらも、学校では精一杯頑張っています。先生はその姿を目の当たりにすることで、自分も甘えちゃいけない、頑張らないといけないと思い始めるのです。自分一人で悶々としていては、道は切り開けませんよね。彼女を立ち直らせるために、代用教員として呼んだのも親友だった先生でした。人は誰かに助けられ、応援されることでより大きな力をチャージ出来るのだと思います。中学生たちの素晴らしい合唱を聴き、島の素晴らしい景色を観るだけでも心が洗われるようです。

次はアニメーション作品の『心が叫びたがってるんだ。』(2015 日本)です。小学生の時に、父親が見知らぬ女性と逢っていたところを目撃し、それを母親に話したことから父親の不倫が発覚、遂には両親が離婚してしまった女子高生が主人公です。自分のおしゃべりが原因で親が別れてしまったという罪の意識にさいなまれた彼女は、一切喋ることを止めてしまいます。そんな彼女が、ひょんなことから歌だけは歌えるようになり、学校演劇のミュージカルに出演することになります。普段喋らない子ですから、周りの生徒たちともなかなか上手くコミュニケーションが取れません。演劇祭はどうなってしまうのか。そして彼女は喋るようになるのか。

高校生の機微を捉えた数々の会話や行動、実写と見紛うきめ細やかかつ懐かしい風景描写、アニメの登場人物に命を吹き込む声優のアテレコ、ミュージカルをクライマックスに持って来る物語の構成力、等々、日本のアニメのレベルの高さに惚れ惚れします。何と言っても、瑞々しい感性が作品を貫いています。そしてやはり、人から勇気付けられ、人は成長するのだというテーマがいいのです。もし、日本の少女アニメ映画は一部のマニア向けだと思っている人がいたら大間違いです。先ずは本作を是非ご覧ください。アニメの魅力の虜となり、逆にマニアになるかもですよ。

以上、今回は珍しく怖い作品はありませんので、その筋を期待していた人は御免なさい(←そんな奴いるかいな!)。人間、一人でクヨクヨ悩んでいては前に進めません。友人や親や先生、または映画や本の中の登場人物かもしれませんが、前進するきっかけを与えてくれる人がきっといるものです。これらの作品を観てそう強く感じました。是非観てくださいね。

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