平成28年8月
只今、8月に入ったところですが、札幌もムシムシと蒸し暑い日が続いています。時折スコールのような集中豪雨も降り、これも地球温暖化の影響でしょうか。こんな時季には爽やかな映画で一服を、と思ったのですが、やはりここは夏定番の怖い映画特集といたしましょう。ガタガタゾクゾクして涼しくなればよいのですが、恐怖と緊張で汗が噴き出して来ること間違いなし!徹底して汗をかきましょう。
ホラー映画も沢山ありますが、今回は皆さんにも身近に感じるPOV(Point Of View)形式、いわゆるホームビデオのカメラやテレビカメラ、監視カメラなどで撮影されたという設定の疑似ドキュメンタリー・タッチの作品を紹介しましょう。
10数年前に、森の中で、何か得体の知れない邪悪なものから自分たちが逃げ回る姿をホームビデオで撮影したという触れ込みの『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(The Blair Witch Project 1999 アメリカ)という作品が大ヒットしました。結局、邪悪なものの正体はハッキリ映らず、いったい何だったの?と煙にまかれたようなラストを迎えるのですが、そこへ行くまでの緊張感は半端なものではありませんでした。主人公の手持ちのホームビデオの映像がそのままスクリーンに映るので、臨場感たっぷりなのです。徹底した主観映像が生み出すリアリズムですね。ただ、アイデアはよかったのですが、ラストがいまいちだったものですから、私としては残念な映画になってしまいました。
そうこうしているうちに『パラノーマル・アクティビティ』(Paranormal Activity 2007 アメリカ)が登場しました。若い夫婦が新居に引っ越して来ます。映像は旦那さんが買って来たビデオカメラのものです。最初の30分位はどこの家でも撮っているような日常生活の映像がダラダラ流されるだけで、これは失敗作じゃないかと不安が過りました。しかし、夜中に階下で何か物音がし始めてからジワジワ怖さが迫って来ます。夫婦は、寝室にカメラを固定して、寝ている間に何が起こっているのかを確かめようとします。ある夜には音だけではなく、寝室の扉がスーッと開く映像が写っていました。またある夜には、足音らしきものがミシミシとベッドに近づいて来る音が録音されていました。そういった映像を二人が翌朝目覚めてから確かめるのですが、観ているこちらもだんだん怖くなってくること請け合いです。その霊らしきものは奥さんを引きずり回すなど、徐々に凶暴性を現してきます。「あんたたち、早くこんな家から逃げなさい」、と言いたくなります。そして引っ越しを決めた最後の夜、惨劇は起こりました。
何事もない平穏な生活から悪夢のような世界への展開が、ホームビデオの映像を使用することで違和感なくすんなり受け入れられます。ショック描写も効果的に挿入され、ヒタヒタと迫る怖さとギョッとする怖さが巧くブレンドされた逸品です。後にシリーズ化されましたが、この一作を観るだけで十分です。
この映画のヒットの影響で日本で作られた便乗企画のような題名の作品『パラノーマル・アクティビティ 第二章/TOKYO NIGHT』(2012 日本)があります。主人公は夫婦ではなく、姉弟の二人です。この作品も本家同様に、彼らの住む家で、何気ない日常風景から徐々に徐々に何か霊的な力による怪異現象が発生する様をホームビデオの記録映像で追体験していくという構造です。
最初は、どうせ二番煎じのまずまずの怖さの作品なんだろうなと高を括っていましたが、いやいやどうして、アメリカの本家作品に引けを取らず、邦画らしいよい出来の作品でした。いや、こちらの方が見慣れた世界で起こる話でもあり、より身近で怖い。本家作は舞台がアメリカですので、やはりどこかカラッとした雰囲気があります。それに対して本作は日本が舞台ですので、こういうジャンルの作品らしく、どこかジメッとした日本独特の暗さが漂っていてゾッとさせられます。そして、ホームビデオだけではなく、監視カメラやドライブレコーダーの映像を取り込んだクライマックスからラストにかけての畳み掛けるような恐怖描写には顔が引き攣ります。夜に鑑賞した後は絶対に車の運転をやめた方がいいです。
次はスペインに飛びましょう。前二作はホームビデオで撮ったという設定の映像で恐怖を煽りましたが、全編、テレビ局のカメラマンが撮った映像という設定で描かれる『REC/レック』(Rec 2007 スペイン)です。消防隊の密着取材を行っているテレビ・レポーターとカメラマンが、ある古いアパートへの出動に同行します。そこでまず目に飛び込んで来たものは、血だらけの老婆が住人の一人に襲いかかり、肉を食いちぎるという衝撃の光景でした。そして、食われた者もまた人を襲い始め...、というように、所謂、ゾンビものの一種なのでした。外部から隔離されたアパート内の狭い空間で物語が展開され、その様子をテレビカメラの限られたフレーム内でしか我々も観ることが出来ないため、いつどこからゾンビ化した住人たちが襲って来るか分からない緊張感と恐怖がたまりません。
本作も好評につき、その後シリーズ化されましたが、一体全体このアパートで何が起こったんだ、という謎を残しつつ展開されていくこの一作目が断トツの面白さ、怖さです。但し、日米それぞれの『パラノーマル・アクティビティ』は流血描写の無い心霊ホラーでしたが、本作は血がドバドバ噴き出すスプラッター・ホラーとなっていますので、血が苦手な方はご注意ください。
この他にも『死霊高校』や『グレイヴ・エンカウンターズ』など、いろいろなPOVホラーが作られています。ホームビデオ映像でいいのだったら自分にも作れそうな気がしますが、計算された恐怖演出というのでしょうか、流石プロが撮った映像は違いますので、怖さに浸りながらもその技術をお楽しみください。まあそれに、自分が撮ったPOVホラーに心霊写真のような本当の心霊現象が写っていたら洒落になりませんからね。やっぱり撮るのはやめておこう。
それでは、冷や汗をたっぷりかいた鑑賞後にはシャワーを浴び、スッキリしたところで勉強タイムに戻りましょう。それが一番の恐怖?と、普通ならここで終わっているのですが、どうしてもホラーはダメという方のために、もう一本POV形式の作品を紹介します。
ある夜に隕石が落ちて来るのを目撃した高校生三人が、墜落現場に駆け付けたところ、隕石に近づいた途端爆発が起こり、何らかの光線を浴びてしまいます。そして翌日から、三人には物を動かすことや、自分の身体を空中に浮かせることが出来る念力が身に付いていたのでした。そんなアホな、という展開で始まるこの様子を、三人の中の一人のビデオ撮影オタクの映像で綴った映画が『クロニクル』(Chronicle 2012 アメリカ)です。超能力が身に付いたものだから、スカートをめくったり、駐車場の車を動かして他愛ないいたずらをしたり、また、空を飛んで楽しんだりしていましたが、撮影オタクの子が、自分には他者を支配できる能力が備わったのだ、と思い始め、暴力性がだんだんとエスカレートして来ます。そして遂には仲間の一人を殺めるまでになってしまいます。家でも学校でも悶々とした生活を送っていた青年が、強大な力を急に持ってしまった時、その力をコントロール出来ずに暴走し、結果、悲劇を生み出してしまう。お気楽な映画かと思っていたらそうではなく、人間の性までも描く深い映画なのでした。
クライマックスは、凄まじい迫力あるテレビ中継の映像を盛り込んで、二人の悲しい最後の対決が繰り広げられます。SFものでもあり、アクションものでもあり、そして青春ドラマ、友情物語でもあり、いろいろな要素が上手くミックスされた掘り出し物です。特に学生の皆さんが鑑賞するのに丁度よい作品だと思います。三人それぞれの高校生に共感する部分が必ずあるはずです。是非、この夏の一本に加えてください。
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