アトリエトーク

映画の館『スポポン館』 第35回

平成28年2月5日

館主 平 均(たいら ひとし) <ペンネーム>

既に新しい進路が決まった人もいれば、これから入学試験を受ける人も多く、この時期は受験生にとって落ち着かない日々が続くかと思います。でも、「鬼は外、福は内!」の気持ちを持って慌てることなく日々を過ごしましょう。そして2時間ほど時間を設けて、気分転換に映画を!

今回はこれまであまり紹介していなかったスペイン映画と韓国映画を上映します。ミステリアスでちょっと不気味で不安に駆られるストーリー展開ですが、観終わった後にはきっと心に残るもの(悲しみ、怒り、そして愛)を感じるはずです。

先ずは『シャッター ラビリンス』(Hierro 2009 スペイン)。

シングルマザーが幼い一人息子を誘拐されるところから物語は始まります。子供の死体が海で発見されますが、母親が確認したところ別人でした。それからは警察の捜査のみに頼れないと、母親が懸命に息子の行方を捜し回ります。その過程で自分と同じように幼い息子を誘拐された母親と知り合ったりします。そして遂に、誘拐犯に捕まっていた息子を発見し二人で逃げようとするのですが…。これ以上紹介できないのが残念。是非皆さんの目で見届けて下さい。

スペインと言えば明るいイメージがあるのですが、映画の舞台となるのは荒涼とした風景が印象的な海岸沿いの町で、そこでもがき苦しみ執念の鬼と化す母親の姿が切々と描かれ、風景がミステリアスなムードと悲しみをより深く感じさせる効果を上げています。初めこのタイトルを見た時、ディカプリオ主演の『シャッター アイランド』とギレルモ・デル・トロ監督の『パンズ・ラビリンス』をくっ付けた安易なタイトルだなと思ったのですが、観終わって納得。うまく付けたタイトルです。

次は『ロスト・ボディ』(El Cuerpo 2012 スペイン)。

ある法医学研究所の夜警が血相を変えて研究所から飛び出し、そして車にはねられて昏睡状態になったところから物語は始まります。夜警は何を見たのか?そこに死体安置所もあるのですが、そこから一体の婦人の死体が無くなっていることが分かりました。警察は夫を研究所に呼びますが、その夫は何やら怪しく、妻を殺害したのは彼ではないかと疑い始めます。片や彼には妻が蘇ったとしか思えないような出来事が次々起こり始めます。何故死体が消えたのか?彼が妻を殺したのか?夜警は何を見たのか?結末は皆さんの目でご確認下さい。

ゾンビの如く死体が蘇ったのではと思えるホラー映画のような不気味さ。夫の怪しい行動とその夫を襲う不可解な出来事のミステリアスさ。彼を手助けしようとする若い愛人の健気さ。妻を交通事故で亡くした刑事の悲しみ。等々の様々な感情とムードが交錯し、見事な結末へと集約される映画です。

最後は『殺人の告白』(Confession Of Murder 2012 韓国)。

婦女連続暴行殺人を犯した男が捕まらずに事件の時効を迎え、殺人の経緯を綴った告白本を発行します。いくら時効になったとは言え、普通なら社会的に許されない奴で、当時から事件を担当している刑事と対立しますが、イケメンで上品な物腰の彼をマスコミが持ち上げ、若い女性のファン・クラブが出来たりもします。しかしそこに、我こそが犯人である、という男が現れ、テレビ討論会で刑事と犯人と名乗る二人が顔を会わすことになります。さて、真犯人はどちらなのか?あなたの目でしっかりとご確認下さい。

上記のストーリーを聞いただけだと心理描写を重点に置いた静かな作品かと思われるかもしれませんが、そこはエネルギッシュな韓国映画。開巻早々の刑事と犯人の激闘場面や、被害者遺族が告白本を書いた容疑者を復讐のため拉致しようとするカー・チェイス・シーンなど、まさに息もつかせぬアクション・シーンのてんこ盛りでアクション映画ファンも大満足。そして、よく練られた脚本の中に、マスコミや無知な大衆への批判、刑事の執念、遺族の悲しみが深く重く描かれています。

今回上映の3本は何れもサスペンス満点で、何気ない描写が後々の伏線になっていて片時も目が離せない作品です。練り上げられた脚本でストーリーが展開し、各登場人物のキャラクター描写もしっかり描かれ、そして心に響く見事な結末を用意している作品です。悲しい物語ではありますが、それ以上に家族への愛を感じさせてくれる映画たちです。いろいろな国の映画を観られるというのは幸せです。日本やアメリカ以外の映画も是非ご覧下さい。各国クセになるスパイスが振り掛けられていますよ。

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