アトリエトーク

映画の館『スポポン館』 第34回

平成28年1月8日

館主 平 均(たいら ひとし) <ペンネーム>

受験生の皆さんは、いよいよ大詰めの時期を迎えて緊張と焦りで夜も寝つきにくいかもしれませんね。しかし、それでは身体がもちませんので、睡眠は十分に取るよう心掛けましょう。それには、勉強でいっぱいになった頭を休めるために、映画を観るのがいいと思います。映画の興奮が冷めずにかえって眠れなくなった!とおっしゃる方が出て来るかもしれませんが、それはあなたが感受性豊かな証拠、ということでヨシとしましょう。(←都合のええこと言う奴だ)

さて今回は前回・前々回に引き続き、10月から12月までに劇場で観た映画の寸評を発表します。前回、鑑賞の追い込みを駆けると言ったにもかかわらず、10本に終わってしまったのが残念であります。少しでも多くの作品をご紹介しようとしたのですが、それはまた2016年の課題ということでお許しを。掲載順はいつものように観た順です。

(1)キングスマン

表向きは洗練された英国紳士。しかしその正体は、悪い奴らをやっつけるエリート諜報部員。宣伝惹句にもあったように、キレッキレのアクションが展開するスパイものの傑作です。スパイものと言えば007ですが、その本家007のロジャ-・ムーアがボンド時代のちょっとオーバーで洒落た感じの娯楽作品に仕上がっています。また、60年代の楽しきスパイ映画へのオマージュが随所に散りばめられ、ウキウキしてしまいました。荒唐無稽にしてしかも現代らしく、ブラックで奇天烈な過激シーンも満載。そして、これまでアクション映画とは結び付かなかったコリン・ファースの粋なスーパー紳士スパイぶりが何と言っても魅力的。惚れ惚れしちゃいます。ワルがきが紳士スパイになるという成長物語にもなっているのも予想外で○。とにかく、スカッとしたい時にはオススメです。

(2)マイ・インターン

若くして会社を立ち上げたバリバリのキャリア・ウーマンが、社会福祉の一環で仕方なく採用した70歳のシニア社員から、仕事のことだけではなく、生き方そのものについても助言を得、危機的だった結婚生活も持ち直すようになります。肩ひじを張ってばかりではなく、時には人生の先輩からも学ぼうよ、ということでしょうか。社長役のアン・ハサウェイは水を得た魚のように活き活きとして魅力的。対するシニア社員役のロバート・デ・ニーロは徐々に皆を虜にしていくさすがの包容力。信頼で結び付くこの年の差コンビがいい感じ出してます。

(3)サバイバー

偶然、爆破テロから逃れたロンドンのアメリカ大使館の外交官が、犯人に間違われて警察から追われ、顔を見た爆破テロ犯からは命を狙われ、散々な目に遭います。でも、そこは『バイオハザード』シリーズで鍛えたミラ・ジョボビッチ姐さん。逃げながらも、逆に爆破テロ犯の次なる企みを阻止すべく孤軍奮闘します。変装を得意とする爆破テロ犯役が、元ボンド役者ピアース・ブロスナンなのが珍しい一篇でした。悪役はこれが初めてではなかったかな。

(4)ジョン・ウィック

ヌボーっとした顔ながら、結構アクション映画好きでアクション映画の監督作もあるキアヌー・リーブス主演のスタイリッシュなクライム・アクション映画です。何はともあれ、ガンさばきと格闘技を融合させたガン・アクションがとにかくカッコいい!それを使いこなすニヒルなキアヌーが悶絶必至のカッコよさ!来日した際のインタビューで熱っぽくアクション・シーンのことを語っていたのも頷けます。病気で亡くなった愛する奥さんがプレゼントしてくれた犬が殺されたところから復讐が始まる、という展開も彼らしくていいです。架空の裏社会を描いた本作の世界観も魅力的で、続篇を熱望します。

(5)ヴィジット

中学生と小学生の孫が二人で、まだ会ったことのないおじいちゃんおばあちゃんの家を初めて訪問しました。会えて嬉しかったけれど、少し変わったところがあるおじいちゃんおばあちゃんだなあ。病気みたいだから仕方ないよなあ。でも、だんだんおかしくなってくるみたいだなあ。ちょっとこれはヤバイよヤバイよヤバすぎるよ。もしかして人間じゃないのかも。ウワァー!逃げなくちゃ。という内容の映画です。徐々に露わになって来る祖父母の奇行が実に怖い。しかもお下劣!もっと話したいけれど、これ以上の説明はルール違反となりますので、是非、皆さんの目でお確かめ下さい。『シックス・センス』『サイン』『ヴィレッジ』そして『ハプニング』のM・ナイト・シャマラン監督の復活作であります。

(6)メイズ・ランナー2/砂漠の迷宮

何故か巨大迷路に閉じ込められた青少年たちの迷路からの脱出を描いて面白さ満開だった前作の続きです。今回は砂漠といっても、砂漠にある廃れた町からの脱出になりますので、前作のような異様な世界観ではなくなりました。それに、前作でチラッと現れた、何やらよからぬプロジェクトを遂行しようとする組織が出て来て、摩訶不思議な魅力が減ってしまいました。本シリーズは三部作ということなので、次回の3作目に期待しましょう。

(7)GAMBA ガンバと仲間たち (邦画)

私は観ていなかったのですが、テレビで『ガンバの冒険』というネズミのガンバを主人公としたアニメ・シリーズがあったのですね。本作はその物語をCGアニメ化したものです。ネズミたちが凶悪なイタチたちと戦う話なのですが、そこに友情や愛情、自己犠牲などが描かれ、思わずウルッとくる感動作になっています。声優も巧い!CGアニメの出来も素晴らしく、動物たちの表情がなんと豊かなことか。勿論、アニメお得意のスピード感も存分に発揮されています。ほんと、子供向けだと思って観るのをパスしなくてよかったです。小中学生、そして大人の方にも是非観ていただきたい素晴らしい作品です。

(8)起終点駅/ターミナル (邦画)

かつて愛人を自殺させてしまい、その責任から、現在は半隠居生活みたいな慎ましやかな人生を送っている男が、強引に割り込んで来た或る若い女性との心の触れ合いをきっかけに、生きる意味を見出していくという人生再生物語です。原作は北海道出身の作家、桜木紫乃の直木賞受賞作品です。舞台が釧路なのも雰囲気に合っています。男の方だけではなく、若い女性の方も苦悩を抱えていたことが分かり、彼女も新しく人生を踏み直すという構成になっているところに共感を覚えます。佐藤浩市と本田翼の年の差コンビがいい感じ出してます。

(9)劇場霊 (邦画)

『女優霊』で注目され、『リング』でJホラーの立役者となった中田秀夫監督の原点回帰作かと期待しましたが、ガックリな出来となってしまいました。タイトルからして間違いですよ。これは劇場ではなく、人形に憑りついた霊の話ではないですか。その人形が劇場内で人を襲っていくわけですが、子供向け怪奇テレビのような作りでほんと怖くないのです。開巻のプロローグから、これは心配だなあという印象を与えられましたが、やはりその通りになってしまい残念でした。往年の怪奇映画“血を吸う”シリーズの作風を目指して作りたかったのかなあ。でも失敗。

(10)007/スペクター

悪の組織スペクターの親玉ブロフェルドはジェームズ・ボンドの育ての親の息子?ボンドも一歩間違えば悪い奴になってたかもね。そんなことはどうでもよろしい。ダニエル・クレイグがボンドになってから、ストーリーがやたら個人的な話になっているのは困りものです。まあ、今回は深刻になり過ぎずに、コミカルなシーンも挿入されているのでホッとしますけれどね。007のお楽しみと言えば開巻すぐに展開されるド派手なアクション・シーン。(←ボンド・ガールではないのかいな)今回もタイトル・シーンになるまで、目が離せませんでした。(←ワンシーン・ワンカットが延々続くからな)なんだかんだで、やはり次作も観たくなります。

今回は10本で、2015年の劇場での鑑賞数は計55本となりました。面白く、感動した作品は言うに及ばず、なんだこれ?これは映画世界に入って行けないなあ、と思った作品も、こうすればもっと上手く作れたのではないかいな、と考える楽しさがありました。

つまりは、何を観ても損は無い、ということです。勉強が、何をやっても損は無い、のと同じですよ。

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