アトリエトーク

映画の館『スポポン館』 第32回

平成27年10月01日

館主 平 均(たいら ひとし) <ペンネーム>

皆さんお元気でしょうか。長い間ご無沙汰してしまい申し訳ありませんでした。映画を観る時間はあったものの、いろいろと環境が変わったりして当映画館を開店休業状態にしてしまいました。今回からまたいつものように開店しますのでよろしくお願いいたします。

いつも年が明けると、前年に劇場で観た全映画の寸評を発表していますが、本数が多くて何回にも亘ってしまいます。そこで今回は今年の1月から6月までに観た全映画の寸評を発表します。そろそろDVD化されている作品が多いのではと思いますので、気になった映画があったら是非ご覧くださいね。

順番はいつものように観た順です。

(1) 海月姫 (邦画)

TV『あまちゃん』で一躍有名になった能年玲奈ちゃんが素で演じているんじゃないかと思ってしまうようなコメディ映画。オタク女子が集まる下宿が舞台になっており、それぞれのキャラも可笑しいです。彼女たちの友情物語にもなっており、クライマックスのファッション・ショーのシーンは楽しくそしてグッと来るものがありますよ。それにしても、女装趣味の菅田将暉に惚れてしまいそう!

(2) バンクーバーの朝日 (邦画)

戦前、カナダに移住した人たちが日本人野球チームを作って地元カナダ人に認められるまでを描いた、実話を基にした映画。日本人をバカにする奴は許さん!ということだけど、妻夫木聡演じる主人公がいつもながらの優柔不断な男なのがこの種の映画としては珍しいです。願わくば野球シーンがもう少し盛り上がってくれたらなあ。

(3) 96時間/レクイエム

リーアム・ニーソン演じる怒れる親父が暴走する第3弾。今回はなんと奥さん(私が好きなファムケ・ヤンセン)が殺されてしまい(涙)、犯人に仕立てられてしまった親父が復讐鬼と化す!リーアム親父が敵を叩きのめす激しさは歳を取るごとにパワーアップ。でも、これで打ち止めにしておかないと、シリーズものの宿命で次作では娘が殺されてしまいそうです。

(4) ワイルドカード

ラスベガスのギャンブラーで用心棒が悪い奴らをやっつける、というありがちなストーリーながら、主演のジェーソン・ステイサムの魅力で見せる映画。いつもながら、彼のアクション・シーンはキレがいいです。舞台がラスベガスということもあって、カード・ゲームを知っているとより面白さが伝わるんだろうな。

(5) ジョーカー・ゲーム (邦画)

第二次世界大戦が始まろうとする異国を舞台に、日本の諜報部員が活躍するスパイ・アクション。出だしは当時の雰囲気、スパイ映画の緊張感を醸し出して非常に期待しましたが、徐々にお気楽アクション映画になってしまい残念。深キョン演じる女盗賊が峰不二子みたいなんだもーん。

(6) チョコレートドーナツ

少し前まではアメリカにおいても同性愛者が公に認められることはなかったということがよく分かります。男性カップルが親に見捨てられた知恵遅れの子を育てようとするのですが、最後には引き裂かれ、更に悲しい結末が待っています。非常に辛く胸が引き裂かれそうです。でも救いは、偏見に満ちた大人たちが後悔の念を感じたであろうラストです。

(7) マエストロ! (邦画)

経営がうまくいかず解散した交響楽団が、風変わりな指揮者のおかげで立ち直るという人生再起物語です。指揮者役の西田敏行がまさにはまり役。最初の大工姿なんて全く違和感無し。反発していた楽団員がだんだんと彼と心を通わせて行く過程や、クライマックスの演奏会も素晴らしいです。まあ、有名なクラシック音楽を存分使っているんだからズルいよね。

(8) 繕い裁つ人 (邦画)

神戸の北野町辺りにある昔ながらの洋裁店を舞台に昔気質の女性店主を描いているのですが、こんな人いるのかなと、なんだか現実味が感じられません。仕立てた洋服を愛する人々との交流等も描いていますが、いかにもいい映画でしょうと言いたげなのが見え見えです。ファンタジーとして観ればいいのかなあ。

(9) 娚の一生 (邦画)

片ややもめの大学教授=豊川悦司、片や夢破れて故郷に戻って来た女=榮倉奈々。親子と言ってもいいぐらい年の離れたこの二人が徐々に徐々に愛し合うようになる過程がコミカルに丁寧に描かれていて非常に気持ちいい作品に仕上がっています。ゆったりとした田舎の描写も効果大。主演二人が実にいい感じで、この作品で初めて、榮倉奈々がいいなあと思いました。

(10) アメリカン・スナイパー

イラク戦争で伝説のスナイパー(狙撃手)と呼ばれた実在のアメリカ兵士の物語をクリント・イーストウッドが映画化した戦争ドラマ。戦場場面での緊張感がとにかく半端ではありません。まるで自分がその場にいるような錯覚をし、恐怖さえ感じます。また、普通の市民生活に戻れなくなってしまった兵士、その家族の苦悩も描かれ、先の戦場場面と合わせ、これは間違いなく反戦映画なのです。

(11) ソロモンの偽証 前篇・事件 (邦画)

学校の屋上から落ちたと思われる中学生の死体が発見されるショッキングな冒頭から、真実を言っているのか嘘を言っているのか分からない同級生たちやその親たちが登場し、実に興味深い展開になって行きます。映画『羅生門』形式で各人が証言するのですが、どれが本当のことなのか興味津々。後篇への期待は高まるばかり!

(12) アナベル/死霊館の人形

アナベルという名前の可愛らしい女の子の人形がその持ち主に災いをもたらす、という日本でも通じる人形を題材にした怪奇映画。確かに、人形って親しみを覚える反面、得体の知れない不気味さを感じることもありますよね。特に前の持ち主が分からない人形はちょっとねえ。今回は人形に憑りついた人の正体が分かっちゃったので怖さ半減。

(13) くちびるに歌を (邦画)

過去に訳ありな臨時音楽教師と合唱部の中学生たちとの心の交流を丁寧に描いた佳作です。無愛想で取っつきにくい教師を新垣結衣が好演。指導者である立場の者が子供たちと触れ合っていくことで過去を克服していくようになる再起物語です。アンジェラ・アキの合唱曲「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」が効果的に使われ、爽やかな感動を生みます。

(14) プリデスティネーション

ある男の運命を時間軸を縦横無尽に操って描いた作品で、よーく観ておかないと緻密に練られた脚本を理解することが出来ません。と言ってもサスペンスありアクションありで、全く小難しい映画ではありませんのでご心配なく。配役にも気が配られていて感心します。最後になるほど!と感嘆すること請け合いです。

(15) 風に立つライオン (邦画)

国境なき医師団の一員としてアフリカのある村に渡った青年医師の物語。前作『藁の楯』の三池崇監督と大沢たかおのコンビがまさかまさかこんな爽やかで感動的な映画になるなんて驚き!自分の身の危険を顧みず医療活動に従事する医師たちの姿には感銘を受けます。辛い結末もお涙頂戴ものにはなっておらず、爽やかな印象が残ります。

(16) ソロモンの偽証 後篇・裁判 (邦画)

ワクワクドキドキの前篇からのお待ちかね、いよいよ後篇の始まり始まり!ということで期待していたのですが、結果は、ありゃりゃ?面白さが失速してしまいました。中学生のお話なので、やはり悲惨な方向へは物語は展開せず、優等生的に収めざるをえなかったのでしょうか。宮部みゆきの原作がそうなのかな。

(17) ジヌよさらば (邦画)

お金恐怖症になった元銀行マンがお金を使わない生活を送ろうとして田舎町にやって来るところから映画は始まります。そのちょっと変わった男とちょっと可笑しな村人たちとのやり取りが面白いのですが、純粋なのか下世話なのか、男のキャラクターが私には掴み辛く、松尾スズキ・ワールドはけったいだなあと思った次第であります。

(18) ストロボ・エッジ (邦画)

高校生やカップルが多い中、勇気を出しておじさん一人で観に行った甲斐がありました。主人公の恋に奥手な女子高生に胸キュンです。演じる有村架純ちゃんに胸キュンです。この映画を観た人みんなそうでしょう?あっ、女子のみなさんは福士蒼汰君に胸キュンですかね。

(19) セッション

これは強烈!こんな鬼教官見たことない。と言っても軍隊なんかじゃなく、なんと音楽学校でのお話です。ジャズ演奏での教官とドラマー志望学生との凄まじいバトル。二人のやり取りは音楽の演奏をしていると言うより、もはや殴り合いの領域です。音楽を通じての心の交流なんてチャラくさい。求めるものは真の音楽のみ!でも、こんな教官には絶対付きたくないなあ。

(20) ホーンズ/容疑者と告白の角

俺の彼女を殺したのは誰か?犯人扱いされた恋人が真犯人を見つけ出すまでを描いているのですが、何故か彼の頭に角が生えて来て、その角を見た人は本音を話すようになってしまいます。真実を知ることは出来るものの、親しい人が本当は自分のことをどう思っていたかを知るなど、悲しい思いをすることもあります。複雑だなあ。

(21) 寄生獣 完結編 (邦画)

人間が謎の生物に寄生され、侵略されて行く様子をグロテスク描写たっぷりに描いた前作の期待の続編だったのですが、変に感動ものにしたがる悪い傾向が本作にも見られ、その分不気味さが無くなってしまいとても残念でした。阿部サダヲが声を充てているミギーは応援したくなるけれどもね。

(22) ブラックハット

コンピューター・ハッカーによる陰謀を阻止せよ、ということで、刑務所に放り込まれていた天才ハッカーが駆り出されるサスペンス・アクションです。マイケル・マン監督(『マイアミ・バイス』や『ヒート』他)お得意のスタイリッシュな夜間映像とガン・アクション・シーンはいいのですが、冒頭のコンピューター配線を辿るタイトル・シーンからして、この監督にはちょっと畑違いな感じがしました。

(23) ラン・オールナイト

リーアム・ニーソンが元CIAではなく、若かりし頃はマフィアのやり手だったが現在は酒に溺れている男を演じています。しかし、息子の窮地を救うため、昔の仲間たちと戦わざるをえなくなり、そこから俄然目覚めます。一夜だけの攻防を緊張感溢れる演出で描いています。敵ながら親友でもあるエド・ハリス演じるマフィアのボスとの避けられない対決も泣かせます。そして父と息子の絆も。

(24) メイズ・ランナー

何故か巨大迷路の中に閉じ込められた少年少女たちの脱出劇を、次から次へと襲い来るピンチを用意して観る者を飽きさせないサバイバル・ムービーです。得体のしれない生物が襲って来るシーンはドキドキもんです。少年たちが徐々に逞しくなっていく成長物語である点も見逃せません。

(25) 王妃の館 (邦画)

ダブル・ブッキングした2グループの団体をなんとかして同じホテルに泊めようと悪戦苦闘する弱小旅行会社のてんやわんやの騒動を、滑稽かつ心温まる物語に仕上げたコメディです。パリの名所やミュージカル風の劇中劇も大いに効果を上げています。でも、小説家に扮したおかっぱ頭で半ズボンを穿いたとっちゃん坊やのような水谷豊が強烈。C’est Bon !

(26) 夫婦フーフー日記 (邦画)

子供を産んですぐに病気で亡くなってしまった奥さんとの思い出を、ブログから本にした旦那の実話を基にしたお話です。大いに笑ってそして泣いて、とてもいい気持ちになれる映画です。夫婦役の佐々木蔵之介と永作博美の息ピッタリの掛け合い漫才的なやりとりが実に楽しく、夫婦・カップルで観ると楽しさ倍増でしょう。(因みに私は一人で観ましたが...)

(27) 誘拐の掟

リーアム・ニーソンが元警官で現在は飲んだくれの私立探偵を演じています。今回は『96時間』シリーズとは違って、誘拐された裏社会の大物の娘を救出することになるのですが、誘拐犯のキャラクター設定が弱くてちょっと盛り上がりに欠ける展開となりました。原作は探偵マット・スカダーのシリーズものなので、続編が出来るかな?

(28) 騒音 (邦画)

マルチ・タレントのラビット関根、いや関根勤の第一回監督作品の登場です。地底から地底人がやって来て、温水洋一を始めとする中年ダサダサ親父戦隊が迎え撃つという、全くもってナンセンスなストーリー展開ながら、多彩なゲストを含め、親父ギャグのてんこ盛りで親父は嬉しくなってしまいました。ダメ親父のペーソスも描かれていますしね。親父たちよ、チバちゃん(千葉真一ね)のごとく、気合を入れろ!

(29) ビリギャル (邦画)

どん底偏差値から慶応大学に合格した女子高生の実話の映画化。本もヒットしましたよね。前向きな彼女がいいのは勿論ですが、友達、塾の先生、そして母親など、彼女を取り巻く周りの人が皆理解あるいい人だったことが良かったんですね。羨ましい。そして最後には父親とも通じ合えてハッピー!こんな娘(有村架純ちゃん)がいたらなあ。

(30) マッドマックス/怒りのデスロード

あの『マッドマックス』シリーズのなんと30年ぶりの新作。監督は前3作と同じジョージ・ミラー。その執念に涙ものです。観る前はちょっぴり不安もありましたが全くの杞憂でありました。冒頭からマッドマックスの世界に引きずり込まれ、興奮の坩堝状態。映画の半分以上を占めるカー・スタント・アクションには唸りっ放し、燃えっ放しです。坊主頭で片腕の女戦士シャーリーズ・セロンには萌えっ放し。

(31) 悪党に粛清を

珍しいオランダ製西部劇。町を牛耳る一家と、その一味に妻と息子を殺されたオランダ移民の男が対決するという復讐ものパターンの展開ですが、マッツ・ミケルセンなどの演技巧者の俳優陣が揃っていることもあり、個々の登場人物が非常に深く描かれています。それにより、復讐する執念の重みや心の痛みさえ感じさせる作品になっています。

洋邦合わせて半年で31本でした。少しでも気になる作品がありましたら、学生の皆さんは勉強の合間のおやつタイムだと思ってお一つどうぞ。リフレッシュして心が豊かになることでしょう。私は息子が修学旅行のお土産で買ってきた「元祖八ッ橋 まるっぽ栗」でも食べながら、次の映画を観ることとしましょう。

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