アトリエトーク

映画の館『スポポン館』 第29回

平成27年4月15日

館主 平 均(たいら ひとし) <ペンネーム>

学生の皆さんは4月から新しい学校に行くようになったり、学年変わって新しいクラスになったりして、今までとは違った新しい世界があるのではと胸ふくらませている方も多いのではないでしょうか。社会人になると毎年そんなことが起こるわけでもないのですが、サラリーマンだったら転勤が大きな転機でしょうか。でも、期待していたように楽しくないなあと思われている方もいるかもしれませんが、どこへ行っても、どんなクラスになっても、いつになっても、嫌なこともあれば必ず楽しいこともあるものです。

そこで今回はハラハラしながらも大笑いしてスカッと楽しめるフランス映画を上映しましょう。

まずは『リオの男』(L’HOMME DE LIO 1963 フランス)

この映画は軍隊の休暇でパリに戻った主人公演じるジャン・ポール・ベルモンドが誘拐された恋人を追っかけて、パリからリオ・デ・ジャネイロなどブラジル中を走り回り、“追跡・探検・大冒険”という昔々、テレビの日曜洋画劇場で放映する時に付いていた惹句がピッタリの、古代文明の秘宝を巡ってのハラハラ・サスペンスあり、ドタバタ・アクションあり、ちょっぴりわがまま娘とのロマンスありの、これぞまさに娯楽映画と呼ぶにふさわしい作品です。かのインディ・ジョーンズ・シリーズもこの映画に大いに影響を受けていると言われているぐらいです。スケールは勿論全然違いますけれど、ところどころにコミカルなシーンを入れて、皆が楽しめる映画を作ろうという気持ちが伝わって来る点は大いに共通しています。

主演のベルモンドは滅多にスタントマンを使わないことで有名な俳優で、この作品ではホテル上階の窓枠にへばりついたり、高層ビルの工事現場で板渡りをしたりと、特に高い所でのスタント・シーンをハラハラさせながらこなしています。あとは走る走るどこまでも。当時建設中の都市であったブラジリアを革靴で走ったり自転車漕いだりしているシーンは、今観るとちょっと幻想的ですらさえあります。ジャッキー・チェンもベルモンド作品には大いに影響を受けているそうです。

クライマックスのオチややっとのことでパリに戻って来た最後の洒落たセリフなど、いかにもフランス映画らしい洒落っ気いっぱいの楽しい作品です。テレビの洋画劇場ではベルモンドの吹き替えは、ご存知初代ルパン三世でお馴染みの大声優山田康雄氏を起用。ベルモンドの声も勿論いいけれど、声優の上手さに惚れ惚れしながら聴き入ってしまう吹き替え版もいいんですよね。こちらも必聴です。私にとって山田康雄と言えばルパンとベルモンドです。おっと、イーストウッドも忘れちゃいけないぜ。

お次は『リオの男』に続いての、監督フィリップ・ド・ブロカ、主演ジャン・ポール・ベルモンドのコンビ作『カトマンズの男』(LES TRIBULATIONS D’UN CHINOIS ENCHINE 1965 フランス)です。

今回のベルモンドの役柄は人生に退屈してしまいいつも自殺を考えている大富豪で、自殺を試みるけれど上手くいかないので殺し屋に自分を殺してもらうように依頼するのですが、一目惚れした彼女が出来たりして、そうなると命が惜しくなって来て、今度は逃げる逃げるという展開になっていき、主な舞台の香港から、インドやネパールまで行っちゃいます。

今作は前作以上にコメディ色が強く、バスター・キートンなどサイレント映画時代のスラップスティック・コメディ(ドタバタ・コメディ)を復活させようとしているようで、それが見事に開花。ベルモンドたちが殺し屋から逃げるために香港の街中を女装やマジシャンの恰好に次々と変装しながら走り回ったり、酒場での喧嘩があれよあれよと派手になっていって最後は海にドボン!となったり、何故かベッドに乗ったカー・アクション・シーンが出て来たりと、とにかくナンセンス・ギャグのオンパレードで腹がよじれます。そうそう、ドリフのコントをスケール・アップしてやっているみたいでもあるわけで、可笑しくないわけがありません。

ベルモンドのドタバタ・アクションは、海に落っこちたり、煙突の煙で真っ黒になったり、飛行機や気球に乗ったりとますます冴え渡っており、とにかくじっとしている時がないのではないかというぐらい無駄に動き飛び跳ね回っております。それがまた可笑しい!彼が好きな俳優がバスター・キートンというのは大いに納得です。

ベルモンドと言えばジャン・リュック・ゴダール監督の『勝手にしやがれ』や『気狂いピエロ』で有名ですが、とにかく楽しくそしてちょっぴりロマンを感じさせるド・ブロカ監督とのコラボレーションは抜群です。二人の作品には、ちょっと昔の時代の義賊を演じた『大盗賊』、キザなスパイとしょぼくれ作家の二役の『おかしなおかしな大冒険』、ずっこけルパン三世?の『怪盗二十面相』など、楽しい映画があります。

他にも、アンリ・ヴェルヌイユ監督の『華麗なる大泥棒』(これぞルパン三世!)と『恐怖に襲われた街』(スタント・シーンのつるべ打ち!)と『追悼のメロディ』(コクがあります)、フランソワ・トリュフォー監督の『暗くなるまでこの恋を』(謎の美女に堕ちます)、ジョゼ・ジョヴァンニ監督の『ラ・スクムーン』(渋い!)、クロード・ジディ監督の『ムッシュとマドモアゼル』(スタントマンとオカマ俳優の二役!)、クロード・ルルーシュ監督の『ライオンと呼ばれた男』(ベルモンド自身の物語?)と『レ・ミゼラブル』(大ベテランの重厚なる演技)、ジョルジュ・ロートネル監督の『警部』(あらゆる面のチャーミングさ爆発!)と『恋にくちづけ』(とにかく笑かしてくれる)、アラン・ドロン共演の『ボルサリーノ』(活きがいいね)と『ハーフ・ア・チャンス』(老優まさに老友)、などなど盛り沢山あり、ベルモンドを知らないと言うアナタ、それはほんまにもったいないですよー。

ということで、今回はいつの間にかジャン・ポール・ベルモンドPR第一弾となってしまいました。ジャンジャン。

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