アトリエトーク

映画の館『スポポン館』 第25回

平成26年11月10日

館主 平 均(たいら ひとし) <ペンネーム>

昭和の大スター高倉健が惜しくもあの世に逝ってしまいました。83歳なので仕方ない年齢なのかとも思いますが、新作の準備中だったと聞き残念でなりません。とにかく健さんと言えば松平健でも田中健でも佐藤健(←彼は“たける”じゃ)でもなく、渡辺謙でも安田顕でも志村けんでもなく(←しつこい!)高倉健であり、最期まで多くの人に愛された日本を代表する映画俳優、いや、日本人を代表する映画俳優でした。合掌。

健さんの1歳年上なのが前回特集しましたクリント・イーストウッド。寡黙で一本筋が通ったかっこいい男。日本とアメリカの違いはあれ、歳をとってもかっこいい男を演じ続けられた二人には何か似たものを感じます。健さんの方がストイックで真面目ですけどね。

ということで今回は健さん特集、ではなく、イーストウッド監督作の後編をお贈りしたいと思います。続きなので5作目から。健さん特集はまた後日。

(5)『スペースカウボーイ』(Space Cowboys 2000 アメリカ)

若い時に宇宙に飛び立てなかった元宇宙飛行士のおじいちゃんたちが、地球の危機を救うために今度は本当に宇宙へ飛び出した!という痛快な映画です。

イーストウッドを始め、ドナルド・サザーランド、ジェームズ・ガーナー、トミー・リー・ジョーンズ(←彼だけ実年齢は一回り若いんやな)の4人が老体に鞭打って頑張る姿は可笑しくも応援せずにはおれません。サザーランドの助平おやじ振りもケッサクで、その自然さがさすが年の功と思ってしまいます。最近でこそ、若い奴らにゃまだまだ負けんぞと年配の役者たちが活躍する映画が数多く出来ていますが、この作品などはその奔りじゃないかと思っています。勿論、宇宙でのハラハラ・サスペンスの盛り上げ方もツボを心得たもので、幕切れも洒落ていてロマン溢れる演出。主役が若造だとこの味は絶対出せないですね。(←やけにお年寄りに肩入れするなあ)

(6)『ミリオンダラー・ベイビー』(Million Dollar Baby 2004 アメリカ)

イーストウッド演じるボクシングの老トレーナーがボクサー志願の女性をコーチして強い選手に育て上げるという、まるで女版ロッキーのような作品かと思いきや、そうは問屋は卸しませんでした。見事に残酷な現実が待ち構えていました。この衝撃は『カッコーの巣の上で』以来のものです。老トレーナーが取った行動の是非は皆さん自身が判断してください。私は未だに結論が出せない状態です。

ボクシング・シーンは迫力たっぷりの描写で興奮します。そしてイーストウッドお気に入りの俳優モーガン・フリーマンとのじいさん二人での掛け合いがまた楽しい一遍でもあります。勿論、主人公の女性ボクサー役のヒラリー・スワンクは大熱演です。相当身体を鍛えたんだろうな。

(7)『チェンジリング』(Changeling 2008 アメリカ)

これは監督に専念しての作品です。当然ながら夏に本映画館で上映した同じ題名の怪談映画とは別物ですよ。怖さの点では負けていませんが。

ちょい昔の時代設定ではありますが、現代でも多発している子供の誘拐殺害事件を描いたサスペンス・スリラーで、誘拐目的が身代金要求のためではなく、子供を監禁しておいてなぶり殺しにするというゾッとして吐き気を催すような目的なのです。そんな鬼畜野郎に捕らわれた子供たち、そして帰りを待つ親たちのなんと痛ましいことか。その事実が徐々に分かって来る描き方が、気分はよくないのですが実に素晴らしい。しかし、この映画の救いは、母親が子を思う愛情の大きさを描いているところです。面子を保とうとする警察による妨害にも屈せず、最後まで希望を捨てずに息子を見つけ出そうとする母親の姿には神々しささえ感じさせます。演じるアンジェリーナ・ジョリーはこの作品で確実にステップアップしたと思います。

(8)『グラン・トリノ』(Gran Torino 2008 アメリカ)

この作品を観ていると、今までイーストウッドが演じてきたキャラクターが走馬灯のように浮かんで来て、彼の役者人生の集大成と言っても過言ではない映画だと思います。今作から後は監督兼主演作はありません。

会社も定年退職し妻も亡くなり、ガラが悪くなってしまった長年住み慣れた町で独り住まいをすることに決めた偏屈頑固じいさんが、隣に引っ越して来た中国系の少年とその家族と触れ合うことで心が少しずつほぐれていきます。それだけなら単なるハート・ウォーミング・ドラマということになるのですが、それで収まらないのがイーストウッド流。(←男は黙ってハードボイルド!)不良グループの餌食となってしまい窮地に陥ってしまった少年とその姉を救うために用意したラストの仕掛けには、驚きと共にあまりのかっこよさに惚れ惚れしてしまうこと請け合いです。こんなジジイになりたい!

他にも多くの見ごたえある娯楽作を監督しており、サスペンスの盛り上げ方、ニヤリとさせるウィットに富んだシーン、滋味溢れる描写など、奇抜さは無いものの緩急つけた演出手腕はお見事です。また役者の使い方が上手いというのか、皆、その作品世界にぴったりはまっています。そして誰よりも俳優クリント・イーストウッドの使い方が上手い!やはり、己を知れ、ですね。

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