アトリエトーク

映画の館『スポポン館』 第24回

平成26年10月10日

館主 平 均(たいら ひとし) <ペンネーム>

皆さんは“ザ・フォー・シ-ズンズ”というアメリカの音楽グループをご存知でしょうか。60年代にヒットを飛ばした4人組の人気グループです。「シェリー」「あの素晴らしき夜」そして「君の瞳に恋してる」など、若い皆さんもきっとどこかで耳にしたことがあると思われる名曲の数々を生み出した人たちです。

最近公開された映画『ジャージー・ボーイズ』(Jersey Boys 2014 アメリカ)は彼らがグループを結成していく様子から、人気者になったものの様々な確執からオリジナル・メンバーがバラバラになってしまうまでの過程を、音楽シーンを盛り込みながらテンポよくかつドラマチックに描いている作品です。私も名前を知らない役者たち(知っているのは街の顔役を演じるクリストファー・ウォーケンのみ!)の見事な演技と歌のシーンの素晴らしさで映画にグイグイ引き込まれました。そしてフィナーレは楽しいミュージカル・シーンで締めくくられ、観て良かったなあと思わずにおられませんでした。勿論、“ザ・フォー・シーズンズ”を全然知らない人が観ても十分に面白く、彼らに興味を持ってしまうこと請け合いです。彼らがヴィヴァルディも知らない田舎町のチョイ悪兄ちゃんたちだったというのも初めて知りました。「君の瞳に恋してる」の誕生秘話も。(←この歌のシーンは泣けたな)

この映画を監督したのが御年80をとうに過ぎているクリント・イーストウッド。『荒野の用心棒』などのマカロニ・ウェスタンでのガンマン役や『ダーティハリー』シリーズのハリー・キャラハン刑事役でお馴染みのスーパー・スターですね。と言うよりも、若い人たちには今作のように映画監督としての方が知られているのでしょうか。“嵐”のニノも彼の監督作に出てましたからね。『硫黄島からの手紙』

そこで今回はイーストウッド監督作の中で私が好きな作品を特集します。上映したい作品が沢山あり過ぎるので、主演も兼ねた初期の頃の4作品にしましょう。

(1)『恐怖のメロディ』(Play Misty For Me 1971 アメリカ)

イーストウッドの記念すべき第一回監督作品です。随分前から監督を始めていたことが分かりますね。

彼が演じるのは愛するガールフレンドもいるラジオの人気DJなのですが、いつも決まって「ミスティ」という曲をリクエストしてくるミステリアスな女性とたまたま顔を合わせることになり、その場の勢いで彼女と一夜を共にしてしまいます。彼は一夜限りのお付き合いだと軽く考えていたのですが、彼女の方はとんでもない、彼はもうわたしのものよ、と言わんばかりにその後もしつこく彼にまとわり付いてきます。彼がとうとうたまらなくなってきつい言葉を彼女に発したからさあ大変。ガールフレンドにも彼女の魔の手が伸び出します。いわゆるストーカーものの奔りです。いや~、怖い恐い。(←あんたも気を付けよ。いや、ストーカー側になる危険性の方が高いな)イーストウッドがこんなジャンルのスリラー映画を最初に撮るとは予想外でした。しかも、サスペンスの盛り上げ方はお見事。後に作られた『危険な情事』が本作の焼き直しと言われるのも納得です。

(2)『ブロンコ・ビリー』(Bronco Billy 1980 アメリカ)

西部劇は出演だけではなく数本の作品を監督していますが、これは現代の西部劇というか西部劇ショーを見せるワイルド・ウェスト・ショー一座の物語です。

サーカスのように移動式テントでガン・プレイや馬の曲乗りなどをしてアメリカ中を廻っている一座の座長が彼なのですが、生まれは西部劇の世界とは全く関係なく、この世界に憧れてワイルド・ウェスト・ショーを始めた都会の男なのでした。開拓精神とロマンに溢れたかつての西部。失われ行くものへの惜別の念、愛おしさに満ちている作品になっています。しかし、生活をしていく上での現実の厳しい状況も描かれており、夢見るだけの柔な映画にはなっていません。それをまたコミカルに描いており、酸いも甘いも分かった大人の映画だなあと思わせます。公開時に観た時はあまりピンと来なかったのですが、後に再見してこの映画の良さが分かりました。皆さんなら今でも分かるかな。

(3) 『ペイルライダー』(Pale Rider 1985 アメリカ)

次は本物の西部劇を代表して、『荒野のストレンジャー』『アウトロー』『許されざる者』ではなく本作の上映です。

彼が演じる西部劇の主人公はいつも苦虫を噛み潰したような顔をしている得体の知れない人物が多いのですが、本作は『荒野のストレンジャー』同様、もしかしてあの世から蘇った男?と思わせるようなミステリアスな雰囲気に包まれた謎の流れ者です。ある鉱山町の争いに彼が関わっていくのですが、開拓時代の西部の生活はまさにこのようなものだったのだろうなと思わせる描写が多く、それを観ているだけでも興味が尽きません。勿論、ガンファイト・シーンはリアルかつカッコよく、伊達に長年西部劇に携わってきただけではない者の渋さが光ります。そして『シェーン』のような味付けもあり、妙に心に残る映画です。西部劇食わず嫌いの方も是非どうぞ。

(4) 『ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場』(Heartbreak ridge 1986 アメリカ)

海兵隊の歴戦の勇士が、新入隊員をしごいて一人前の兵士に育てるという軍隊ものです。

勿論、彼が鬼軍曹役を演じており、生意気な新兵たちをビシビシ鍛え上げていきます。

前半は練兵所での訓練シーンがほとんどですが、反目し合っていた軍曹と新兵たちが徐々に仲間意識を持つようになる過程をコミカルなシーンを多用して描いており、結構笑えます。後半は彼の部隊がグレナダへの出兵命令を受けて実戦に突入します。ここでは小規模な戦闘をメリハリある引き締まった演出で緊張感たっぷりに描いています。緩急の付け方が実に上手い。奥さんを登場させて軍人の生活をチラリと描写したり、ラスト・シーンを含め、こういう人たちが国を守っているんだよと言いたかったのでしょう。何はさておき、監督イーストウッドは俳優イーストウッドを魅力的に撮る監督だということは間違いありません。他の作品でもそうですが、この映画を観ていると特にそれがよく分かります。それが嫌味ではなく、こちらも嬉しくなってしまいます。

他の作品はまた別の機会にということで。とにかく全監督作観て損は無しですよ。

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