アトリエトーク

映画の館『スポポン館』 第23回

平成26年9月10日

館主 平 均(たいら ひとし) <ペンネーム>

近々、ブラッド・ピット主演で第二次世界大戦のヨーロッパ戦線を舞台にした戦争映画『フューリー』が公開されるので楽しみにしているところです。今回はその第二次世界大戦を舞台にした映画特集といきましょう。好きな作品が多過ぎるので、負けたドイツ軍側から描かれ、しかも主人公のドイツ軍人をドイツ人俳優以外が演じている作品ということで。(←なんか偏屈な奴やなぁ)

まずはドイツ軍最後の大反撃と言われる“アルデンヌの戦い”を描いた大作『バルジ大作戦』(Battle Of The Bulge 1965 アメリカ)です。

敗色濃いドイツ軍が楽勝ムードたっぷりだった連合軍に1944年の末に起こしたアルデンヌ地方での大戦車軍団による反撃です。現在のCGによる特撮とは違い、本物の戦車をバンバン使った映像はまさに圧巻です。この映画の撮影ではアメリカの戦車がドイツ軍の戦車として使用されている点がちょっと残念ですが、それを差し引いても戦車戦の醍醐味は十分に味わえます。やはり本物は重量感が違います。木々を倒しながら森を通って進撃を開始する描写にはゾクゾクします。

ヘンリー・フォンダ、ロバート・ライアン、チャールズ・ブロンソンなど、当時のスターが多く出演していますが、この作品はアメリカ映画ながらドイツ軍側からの視点でも描かれており、そちらの方が断然魅力的なんですね。そしてその魅力の第一人者は、実質的にこの映画の主人公と言っていいイギリス人俳優ロバート・ショー扮するドイツ軍戦車隊長ヘスラー大佐。反撃の切り込み隊長である彼はドイツ第三帝国のための熱い情熱を持っている人物で、作戦のためには時には冷酷、しかし冷静沈着で的確な判断を下して進撃して行きます。ロバート・ショーがクールでカッコいい。しかし、勝利に固執するあまり徐々に人間性を失っていき、彼を慕っていた部下も彼から離れていくようになってしまいます。監督はそこに、ドイツ軍人にもナチス一辺倒ではない良心があることを描きたかったのでしょう。1945年5月にはドイツが全面降伏しヨーロッパでの戦争が終結しましたので、この戦いの結果も分かりますよね。

アクション、スペクタクル映画としても楽しめますし、ドイツ軍側・連合国軍側のいろいろなエピソードがありドラマとしても楽しめます(←これぞ戦争映画の王道作品やなぁ)ので、戦争映画はどうも苦手だなという人も是非ご覧ください。

それでは次に、アメリカ人俳優が魅力的なドイツ軍人に扮した作品として『戦争のはらわた』(Cross Of Iron 1975 西ドイツ+イギリス)を。

この映画はロシア戦線の最前線でソ連軍(←西ドイツもソ連も今は存在しないんやね)と戦っているドイツ軍を描いたもので、タイトル・シーンから作品世界へ見事に引き込まれます。タイトル・バックに流れる少年合唱団の歌が、日本では♪蝶々、蝶々、菜の葉に止まれ♪の歌詞で皆さんが知っている蝶々の歌なんですが、元々はドイツの童謡らしく、この映画では♪孝行息子のハンスが戦争に行って死んじゃった♪というような内容の歌詞になっています。そのタイトルに続くファースト・シーンがドイツ軍小隊がソ連軍小隊を急襲するシーンとなるのですが、もうそこからサム・ペキンパー監督お得意のスローモーション殺戮シーンの始まり始まりー。銃や手榴弾を使用したいわば凄惨なシーンなんですが、見事な編集、音響と相まって、実に詩的かつ魅力的な映像体験を味わえます。映画ならではの醍醐味です。このスローモーション・シーンは作品の随所で登場し、時には悲惨さを強調する役目も果たしています。

そしてカッコよく登場するのがアメリカ人俳優ジェームズ・コバーン扮するスタイナー伍長。現場叩き上げの歴戦の勇士で冷静沈着。上の者にへつらうことなく部下・仲間からの信頼も厚いまさに男が惚れる男です。最後までとにかくカッコいい!映画はソ連軍との激烈な戦闘シーンを交えながら、鉄十字章(勲章)を得る名誉だけを求めて最前線にやって来たプロシア貴族の上官ストランスキー大尉とスタイナーとの対立が描かれていきます。このストランスキーはネチネチといやらしく卑劣な男で、スタイナーの小隊を裏切って敵の真っ只中に置いてきぼりにしてしまいます。その後は敵だらけの中をスタイナー小隊が逃げる展開となるのですが、やっと自陣に帰れるというクライマックスでの衝撃的描写は怒りと悲しみで涙が止まらなくなること必至です。

戦車に追っかけられる恐怖感たっぷりのスペクタクル・シーンなど戦闘シーンもバラエティに富んでいます。また最前線での塹壕生活もリアルに再現されており、自分も土埃や泥の中にいるような気になります。この映画はソ連軍との凄絶な戦闘を描きながら、同じドイツ軍内のドロドロした野望、ねたみ、裏切り等を描いており、戦場では敵も味方も関係なくなるという戦争の狂気をあぶり出し、見事ある種の反戦映画にもなっているのです。是非皆さんの目で確かめてみてください。日本題名も最初は何じゃこりゃと思っていたのですが、意外とこの作品には合っているかもです。(←『悪魔のはらわた』『死霊のはらわた』もあるでよ。これはホラーか)

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