アトリエトーク

映画の館『スポポン館』 第21回

平成26年6月18日

館主 平 均(たいら ひとし) <ペンネーム>

今年になって似たようなタイプの邦画を観ました。どちらも甲乙付け難いいい作品でした。それらは『銀の匙 Silver Spoon』『WOOD JOB!~神去なあなあ日常~』です。どちらも主人公の都会の青年が、地方と言うよりは田舎に行って、今までとは全く違う世界での職業訓練を受けるというストーリーです。そこには慣れないことだらけによる失敗もあり、ほのかな恋もあり、そして最後にはその職業に対する心構えと誇りがしっかりと身に付き、大人へと成長していきます。それらをコミカルにそしてちょっぴり感動的に描いているところもよく似ています。

『銀の匙』(2013 日本)はエリート高校の受験に失敗してエリート・コースを外れてしまった札幌の秀才が、親を含めて皆に会いたくないからという理由で全くの別世界、帯広の農業高校に入学します。道民の皆さんには親近感湧く舞台ですね。

畜産科なので豚や牛の世話をするのですが、勿論、全くやったことがないことばかりの連続で、数々の失敗が大いに笑いを誘います。(←あんたがやっても同じことだろうと思うな)彼が草食系の気弱な青年なので、大丈夫かなコイツ、と心配にもなってきます。彼が恋心を抱くクラスメートの女の子の父親役が強面の竹内力なのもケッサク。ラストで竹内力と哀川翔の2ショットがあり、Vシネマの帝王同士の再会に涙。(←一部の人にしか分からん話やろ!)

酪農家の皆さんなら当たり前のことなのかもしれませんが、いくら可愛がって世話をした豚や牛も、いずれは食用にするために売らなければなりません。殺される運命にあるのです。そこを主人公の青年がどう克服していくかも見どころの一つとなっています。

そして、酪農を営んでいるクラスメートの家が自営を続けられなくなってしまう酪農業の厳しい現実も描かれています。

クライマックスは学校で開催することになった“ばんばレース”です。皆がコース作りから始めていくのですが、その過程、そしてレース・シーンとなかなか感動的です。私は“ばんばレース”は実際に見たことが無いのですが、本物をこの目で見ておかなくてはと思いました。これぞ北海道遺産ですよね。

『WOOD JOB!』(2014 日本)(←GOOD JOBではないの?)の方は大学受験に失敗した青年が、やけのやんぱちで1年間の林業実習生に応募します。場所は三重県の山の中。集団である程度の実習が終わったら、今度は各人が林業を営む家での住み込み実習が始まります。彼が連れて行かれた所は携帯電話の電波も届かないど田舎でありました。

そこでいわゆる“木こり”の生活が始まるわけですが、初めてのことだらけで失敗の連続。これが大いに笑わせてくれます。(←これまた、あんたがやっても同じことやろな)

でも、そうこうするうちに徐々に山の男としての自覚が芽生えて来ます。大学に行った高校時代のちゃらちゃらした同窓生たちが遊びに来て、林業のことをバカにしたような会話に我慢ならなくなり「帰ってくれ!」と怒鳴るシーンは、彼の成長をよく表わしたシーンです。募集パンフレットに可愛い女の子が載っていたから応募しただけで、彼もこの実習に来るまでは彼らと同じような考えだったのですが、林業の大変さを理解し、自然を敬う気持ちを持ち、山の男としての誇りがしっかり身に付いたということの現われでしょう。映画を観ているこちらも、山の男の誇りは別として、林業を続けていくことの厳しさ大変さ、彼らが自然=神を大事にしていることは十分に理解できます。木の上から見る景色のなんと神々しいことよ。

山のお祭りで、山の上から大きな神木を滑らせて下に落とす一大イベントがあり、綱が引っ掛かって主人公の青年が木とともに落っこちてさあ大変!というスペクタクルかつ大笑いしてしまうシーンなどがあったりして、矢口史靖監督のユーモア・センスが随所に光っています。もう皆さん観ているとは思いますが、『ウォーター・ボーイズ』『スウィング・ガールズ』などの傑作も必見ですよ。

今回は邦画の新作を上映しましたが、どちらも学生の皆さんが観るのに丁度いい作品だと思います。未知の世界に放り込まれた若者が数多くの経験を積んで成長していく物語。それを明るくユーモラスに描いた映画。勿論、お父さんお母さんにもね。

それから、もう1本。前2作とはストーリー的には関係ありませんが、『超高速!参勤交代』もおススメです。これも誰が観ても楽しめる明るい時代劇です。ユーモラスなシーン満載ですが、剣戟シーンなど締めるところは締めており、緩急の具合がいいです。最後は当然、観て良かったなあと気分よくなりますよ。出演者もそれぞれいい味出しています。久々にこんなに面白い西村雅彦を見たなあ。

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