アトリエトーク

映画の館『スポポン館』 第19回

平成26年4月16日

館主 平 均(たいら ひとし) <ペンネーム>

最近、シルベスター・スタローンとロバート・デ・ニーロの2大スターがボクシングで激突する『リベンジ・マッチ』(Grudge Match 2013 アメリカ)を観ました。これはまさに『ロッキー』と『レイジング・ブル』の対決ではありませんか。よくまあこんな冗談のような企画を思い付いたものです。何せ二人とも60代半ばを過ぎているんですよ。下手すると寒~いパロディ映画になっているのではないかという心配をしていたんですが、これが全くの杞憂でした。

大人の余裕を感じさせるコメディと言ったらいいでしょうか、とにかく大ベテラン二人の掛け合い漫才的なやり取りに大笑いです。30年前の決着をつけるために二人が一度きりのカムバックをするのですが、身体は勿論昔とは全く違います。スタローンは実際に現在もアクション番長として映画で暴れ回っているので、ボクサー役もまだいけるのは納得ですが、デ・ニーロが心配でした。しかし、トレーニングしてリングに上がった姿を見てびっくり。そして、試合が始まってからの勇姿を見てまたびっくり!さすが、何にでも変身してしまう役者だけのことはあります。

クライマックスは二人の気合が入った真面目な試合なんですが、全体の作りはガチガチのスポ根ドラマではなく、とてもコミカルな作りになっています。そこに、いつまでも思い続け愛する人へのいじらしい想いがあったり、顔を合わすことも無かった親子のホロリとする愛情表現や親子三代の家族の絆があったり、そしてグッと来るライバル同士の男気が描かれていたりと、観た後とてもハッピーな気分になります。久し振りですね、こんなに嬉しくなったのは。皆さんがこのコラムを読む時にはまだDVD化されていないでしょうが、発売後には是非ご覧ください。濃い二人が主演ですが、軽い感覚でとても楽しめる作品に仕上がっていますので。それまでに『ロッキー』と『レイジング・ブル』を観て予習しておきましょう。この作品をよりいっそう楽しめますよ。

あと一言。アラン・アーキン扮するスタローンの老コーチがケッサク。下品なこと言う口の汚いエロ爺なんだけど、奥手のスタローンを上手くサポートするんですよね。『リトル・ミス・サンシャイン』でもそうでしたが、こういう役をやらせると巧いなあアラン爺さん。

さて、お次も最近観た映画で、先ほどの『リベンジ・マッチ』とは雰囲気がガラリと変わって『白ゆき姫殺人事件』(2014 日本)です。これは『告白』や『北のカナリアたち』の原作者である湊かなえの推理小説の映画化です。私は原作を読んでいないのですが、映画は、先の2作とよく似た作り=いろいろな人の証言を映像化していく手法が採られています。

化粧品会社の美人OLが無残な他殺死体となって発見され、同僚の地味なOLが容疑者として浮上して来ます。しかし、容疑者といっても警察がそう発表しているわけではなく、インターネット上のtwitterによって容疑者が浮かび上がり、遂には名前までが公表されてしまうのです。私はtwitterやfacebookをやったことが無い前世紀の人間ですが、この誰もが気軽に無責任に参加できるSNSは非常に便利な反面、誤った情報に流されたり、プライベートな情報があっという間に第三者にも伝わったり、非常に危険なものでもあります。映画でも様々なその他大勢の人々が好き勝手なことをつぶやき、観ているこちらとしては、いいかげんにせーよ!と怒鳴りたくなってきます。

本作品で事件を追っかける主人公がtwitter大好きのテレビ局契約ディレクターということもあり、ワイドショーでこの事件を大々的に取り上げます。テレビですからさすがに名前までは公表しませんが、あたかも例の同僚が殺人犯でございますと言わんばかりの作りになっているのです。他の同僚や学校時代のクラスメートへのインタビューなどを放映するのですが、誰が観ても彼女が犯人だと皆が思ってしまうような部分を抜き出して放映します。インタビューの裏付けも取らずにです。ワイドショーの出演者たちも彼女が犯人だという方へ話を持って来ようとしますし、非常に憤りを感じます。我々が普段観ているワイドショーの中にも、こういう作りのものがあるのではないでしょうか。

本当にその容疑者が犯人なのか別に犯人はいるのか、ミステリー映画ではあるのですが、それ以上にtwitterなどのSNSの危うさ、テレビなどメディアへの不信感が浮き彫りになって来る現代的なテーマを持った作品であり、とても考えさせられます。いろいろな面で気を付けなければならないと。また、やはり人は自分が一番可愛いんだと何だかガッカリする気分になってしまいますが、ラストには人の温もりが伝わり、救われました。劇場で見逃した方はDVDが出ましたら是非ご覧ください。それまで、『告白』と『北のカナリアたち』を観て、湊かなえワールドを体験しておきましょう。

今回は劇場公開新作2本立てでした。当映画館は古い作品からバリバリの新作まで、分け隔てなく上映してまいります。(←内容は怖い系映画に偏ってる気がするけどな)映画鑑賞の基本は映画館。皆さんもどんどん映画館へ行って、暗闇の中で楽しみましょう。(←あんたが言うと、なんかヤラシイなあ)

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