アトリエトーク

映画の館『スポポン館』 第13回

平成25年10月20日

館主 平 均(たいら ひとし) <ペンネーム>

今回は芸術の秋ということで、本映画館ではあまり上映していないタイプの作品を取り上げましょう。館主はどんな種類の映画も好きでいろいろと観ているんですけど、コラムを書いているとついついある方面に偏りがちになりますもんで、この辺でちょっとだけ軌道修正をば。

1本目はルキノ・ヴィスコンティ監督の『ベニスに死す』(Morte A Venezia 1971 伊+仏)。

これは有名な映画なので観ている方も多いのではないでしょうか。トーマス・マンの小説を原作とした映画で、ペストが流行りかけている水の都ベニスに静養にやって来たクラシック作曲家である初老の男性が、そこで知り合った貴族一家の美少年にのめり込んでいくという、非常に耽美的な作品です。決してやらしい映画ではないのでお間違いなく。(←あんたが紹介する映画やから、そんなやつかと思ったわ)

少年の美しさ、若さに恋焦がれるのですが、これはもう作曲家の完全な片想いで、少年の気を惹こうと努力する彼の姿を観ていると、彼がだんだん滑稽に、そして哀れに感じて来ます。少年は作曲家が自分に興味を示しているのを知って知らぬふり。しかも、ふっとポーズを取って作曲家が気になる仕草を時々するのです。もう意地悪。作曲家は完全に手玉に取られています。男女間ではよくあるシチュエーションだと思いますが(←勿論、男が手玉に乗せられるんやな)、この映画では性別を超えた存在として少年が存在し、若さと老いの残酷な対比が描かれ、作曲家の老いへの恐れがだんだん増していくようになります。ラストは残酷であり、悲愴感もあるのですが、その中にも至福の喜びが感じられる幕切れとなっています。

美しいベニスの街並みや海の素晴らしい撮影、グスタフ・マーラーの交響曲第5番を使用した見事な音楽、そして美少年の中性的な魅力というか神々しいまでの魔力。これらが融合して気品溢れて美しく、そして老いて行く者に残酷な映画が完成しています。それが先に述べたラストに集約されています。

それではもう1本続けてヴィスコンティ作品を上映しましょう。『ベニスに死す』の時代背景は20世紀初頭でしたが、今度は現代を舞台にした『家族の肖像』(Gruppo Di Famiglia In Un Interno 1974 伊+仏)。

街中の大きなアパートメントに絵画に囲まれながら独りぼっちで住んでいる老紳士の元で、テロリストの青年を始め、様々な人間がひょんなことから出会うことになります。そして、各々が好き勝手なことを言い始め、静かな一人暮らしを過ごしてきた老紳士がおろおろするという展開です。

家の中での会話中心のドラマで、イデオロギーがどうのこうのという話もあって、最初は取っ付きにくいかもしれませんが、徐々に会話劇に惹き付けられてしまいます。相手の考えをけなしているにも拘わらず、どこかで他人と結び付いていたいという思いの表れか、見ず知らずの人たちが一瞬、家族のように見えます。

老紳士はテロリストの青年にだんだんと好意を持ち始めるのですが、最後は悲痛な現実がやって来て、更に孤独感が深まってしまいます。時代の流れはどうしようも出来ないという無常観が漂っています。この映画が作られたのは約40年前ですが、世代間の断絶、人と人との繋がりをますます考えさせられる映画です。家族団欒は老紳士の家に飾られているような絵画の中にしか存在しないのか…。

この作品にはクラシック音楽も使用されていますが、カンツォーネ歌手イヴァ・ザニッキの「心遥かに」が効果的に流されています。この曲が入った彼女のLPレコードを買ったなあ。(←LPレコードって何ですか?という人もいるんとちがう?)

今回はイタリアの巨匠ルキノ・ヴィスコンティ監督特集ということで、ちょっと高尚な感じになりましたね。観始めるのに、何となく手が出ないなあと思うかもしれませんが、決して難解な映画ではありませんのでご安心を。一度彼の映画を観ると新しい世界が広がりますよ。まずは『ベニスに死す』の美に陶酔してください。

他に、ナチスの台頭と共に鉄鋼財閥一家が没落していく『地獄に堕ちた勇者ども』もおススメですが、これは退廃と毒気の多い作品なのでご注意を。でも昔は夜9時台のテレビ映画劇場でやってましたね。全然関係ありませんが、なんと『悪魔のいけにえ』や『ゾンビ』なども。(←またそっち方面の映画かいな!)

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