アトリエトーク

映画の館『スポポン館』 第8回

平成25年5月15日

館主 平 均(たいら ひとし) <ペンネーム>

新学年になって一か月が過ぎ、皆さん新しい環境に慣れて来た頃でしょうか。この頃になるとよく現れるのが“五月病”というやつで、四月の張り切りムードから一変して、やる気が起こらない、だるいといった沈滞ムードになってしまいます。これは自分が描いていた新生活と現実とのギャップが大きい場合に出易い症状だそうですが、理想は理想、と思っていればいつの間にか気にならなくなるでしょう。そしてそんな時は映画を観て大いにリフレッシュしましょう。(←あんたはリフレッシュのし過ぎちゃいますか?)

一作目は『用心棒』(1961 日本)。これは世界のクロサワ作品なので観たことがある人も多いかな?いやいや、名作と言われる昔の邦画は意外と観られてないんですよね。時代劇だし白黒だし。かく言う私も時代劇は好きなのですが、この映画を観たのは確か大学生の時でした。この映画をイタリアでパクって西部劇として作られたのがマカロニ・ウエスタンの代表作『荒野の用心棒』。こちらはテレビでよく観ていたものです。

お話は、ふらりとある町にやって来た浪人がその町で敵対する二つのやくざ組織を戦わせてどちらもぶっ潰すという痛快なもので、演出がダイナミックでチャンバラ・シーンも迫力あり、やくざ同士が戦う場面やラストの対決シーンなど、凝った構図が随所に見られます。とにかく、これぞ娯楽時代劇といった面白さに溢れています。観た後スッキリ。用心棒と棺桶屋のおやじとのやり取りなど、所々にユーモアも散りばめられています。観る前は黒澤明の映画はちょっと格式ばった作品なのかなあという偏見があったのですが、全くの杞憂でした。ちょっと敬遠してたのがバカみたい。

同じ浪人(だと思われる)を主人公にした第2弾『椿三十郎』も三船敏郎との黄金コンビで作られており、こちらも滅茶苦茶面白いですよ。そうだ、若い方の中には織田裕二版を観た人がいるかもですね。オリジナルも是非観て下さい。三船敏郎の豪快かつ頭脳明晰、無愛想だけど人懐っこい主人公がとにかくチャーミング。この浪人役は三船の当たり役となり、座頭市と対決したり(『座頭市と用心棒』)、テレビ・シリーズに出ていました(『荒野の素浪人』)。黒澤・三船のコンビ作品では現代劇の強烈サスペンス作『天国と地獄』も必見です。

そしてもう一本必見なのが『七人の侍』(1954 日本)。この作品も私は『用心棒』の例に漏れず、アメリカで西部劇としてリメイクされた『荒野の7人』の方をテレビで何回か観ていました。『荒野の7 人』はガンマンたちのカッコよさにしびれましたが、オリジナルの方を観て、ストーリーは同じなのに全く趣の違う映画なのに驚き、日本映画はいいもんだなあと感銘を受けました。

事あるごとに山賊に襲われる農民たちがなけなしの金をはたいて侍たちを用心棒として雇います。雇われたのは七人の個性豊かな侍たちで、リーダー格の侍が彼らを一人一人集めていく過程にまず興味をそそられます。山賊と七人の侍+農民たちの戦いは壮絶で、普通のチャンバラ・シーンとは全く別のまさに合戦というのにふさわしい迫力ある場面の連続です。侍たちもそれぞれ見せ場を持ちながら雨と泥にまみれて戦に散っていきます。もう金のためではなく、農民たちのため、そして自分の誇りのために戦う侍たち、その勇姿にグッと来るものがあります。三船敏郎も農民あがりの侍を豪快に生き生きと演じています。宮口精二演じる寡黙でクールな侍が人気あるようですが、確かにカッコいい。武士たる者かくあるべし。農村を舞台にしていることもあり日本の土着的な風土とダイナミックな集団抗争劇の面白さが融合して、とにかく心にズシンと残る時代劇であり、一度は観ておくべき映画です。

今回は当館にはちょっと合わないかもしれない巨匠の作品を上映しましたが、たまにはこんなのもいいでしょ(←こんなのとはなんじゃあ!by黒澤明)。どちらも時代劇で白黒の映画ですが、敬遠することなくそして偏見を持たずに観て下さい。やはり名作と言われるのには訳があるということがよく分かると思います。そしていつの間にかリフレッシュ!男は黙ってサッポロビール!(←若いモンには分からんじゃろう by三船敏郎)

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