アトリエトーク

映画の館『スポポン館』 第7回

平成25年4月16日

館主 平 均(たいら ひとし) <ペンネーム>

今年のアカデミー作品賞は何だったでしょうか?70年代に実際に起こったイランのアメリカ大使館人質事件に材を取った、まるで映画のような大使館員脱出作戦を誰が観ても楽しめる娯楽作に仕上げた映画『アルゴ』でしたね。面白いですよ。

ということで今回はアカデミー作品賞からスタートです。その中でも皆さんがあまり観てないんじゃないかと思う作品を取り上げます。スポポン映画館ですから。

パットン大戦車軍団』(Patton 1970 アメリカ)。

パットンは日本では有名ではありませんが、第二次世界大戦の北アフリカ・ヨーロッパ戦線において名を馳せたアメリカの実在の将軍です。この映画は猛将と呼ばれたパットンの戦時中の半生を描いた作品で、邦題にあるようなスペクタクルな戦車戦(現在のようにCGでごまかしたりしない本物の迫力!)などもありますが、あくまでも人間パットンを描いていきます。巨大な星条旗を背景に戦場に赴く兵士たちに檄を飛ばすパットンの演説から映画は始まりますが(小学生の時に巨大スクリーンで観たので特に印象的でした)、最初から最後まで、戦うことが好きで弱虫は大嫌い、思ったことはすぐに喋ってしまう頑固一徹モーレツおやじの強烈な個性のオンパレードです。野戦病院で精神的にウジウジしている兵士をヘルメットの上から叩いて問題となったり(日本軍ではもっとひどいことも日常茶飯事だったよな。お国の違いですね。今はスポーツ界で問題に)、ガソリンある限り前進せよの精神で敵のドイツ兵よりもアメリカ兵に恐れられていたんじゃないかと思えるほどで、実際にこんな上司や先生がいたら大変なのに違いありません。

でも、ただモーレツなだけではなく、自ら行動し、一生懸命やっている人には感謝し、神様にも願い事をするなど人間味溢れる人物でもあり、とにかくその強烈な個性に引き付けられます。パットンは1945年終戦の年に交通事故で亡くなっています。まさに戦争を駆け抜けたバイタリティ溢れそして不器用な男であり、彼の半生をスペクタクル映像を交えながら描き切った大作です。観れば引き付けられること間違いなし。

パットンを魅力的に演じたジョージ・C・スコットはこの作品でアカデミー主演男優賞となりましたが、そんなもん貰うために演じたのではない、ということで受賞拒否。このおっさんも相当な頑固おやじ!彼が監督もした『激怒』も観て下さい。『ラスト・ラン/殺しの一匹狼』や『センチュリアン』の渋い役もおススメです。

お次はアカデミー賞とは関係ありませんが、戦うおやじつながりで
ワイルド・ギース』(The Wild Geese 1978 イギリス)。

これは実在の人物を描いたものではなく、金で雇われる現代の戦争プロフェッショナル=傭兵のアフリカ某国での活躍を描く戦争アクションです。軍事独裁政権に幽閉されてい

る穏健派の元大統領を救出する仕事をある資本家から引き受けた傭兵たちが危機また危機を乗り越えていくわけですが、イギリスでの隊員集めから訓練までがじっくり描かれ、観ている我々も否が応でも仲間意識が芽生えてきます。傭兵といえども人の子、人の親です。いろんな生活を背負っています。メンバーの中には若い奴もいますが、ほとんどは中年おやじばかりでリチャード・バートン、リチャード・ハリス、ロジャー・ムーア、ハーディ・クルーガーら渋い主役連中も訓練でヘトヘト。そこで隊を引き締める鬼軍曹の存在が大きな魅力です。また、イギリス流ユーモア(「何故、両方のポケットに手榴弾を入れてるかって?バランスを保つためだよ」など)も散りばめられています。

アフリカでの救出作戦が始まってからは緊迫した小気味いい戦闘アクションにゾクゾクし、裏切りによる逃避行が始まってからは仲間の死などで徐々に悲壮感が増して来ます。特に終盤の飛行場でのクライマックスでは男泣き必至です。勿論、女性の方も。そしてエピローグでもあなたの琴線に触れるでしょう。勇ましくドンパチだけの戦う男たちを描いた映画ではなく、しみじみと心に残る傭兵ものの秀作です。おやじばかりが出て来る作品ですが、女性にも観てもらいたいです。ロイ・バッドの音楽も劇的効果大です。

今回上映の2本は戦争映画ジャンルということで敬遠してしまう人がいるかもしれませんが、絶対に観て損はさせませんよ。きっと気に入るはずです。恐らく好きになるはずです。多分、大丈夫でしょう。少なくとも時間の無駄だったとは思わないでしょう。(←おいおい、だんだん弱気になっとるやないか!パットンに喝を入れてもらえ!!)

コラム一覧へ戻る

▲ページ上部へ戻る