アトリエトーク

『塾長のオススメです!』 Vol.30

平成25年10月20日

河村国語作文塾&学びのアトリエ
河村 勝之

『それから』(集英社文庫)
   夏目 漱石 著

『漢詩の講義』(大修館書店)
   石川 忠久 著

『むかし・あけぼの -小説枕草子-』(上・下)(角川文庫)
   田辺 聖子 著

まず第一冊目は夏目漱石と言えば高校生の塾生は『こころ』でおなじみだと思いますが、私は『それから』をおすすめします。高校一年生の時、バレーボール部の夏の合宿に持参した所、疲れてくたくたながらも夏休みの読書感想文の課題として出ていたのでページをめくっていたことを思い出します。今読み返してみると、情景描写が非常に鮮やかかつ斬新で、以前読んだ時と全く印象が違います。高等遊民(最高学歴をもちながら、親のすねをかじって働かないまま優雅に日々を送る)の主人公長井代助の日々を、かつての恋人三千代との関係を軸にじっくりと丁寧に描いていて読ませます。

この作品は、『三四郎』『それから』『門』と続く、前期三部作の第二作で、私は何故かとても好きな作品です。『坊ちゃん』や『吾輩は猫である』までは読んで、そのあとも漱石を読み続けたいが、あとは何を読めばよいかと迷っている人には、是非オススメです。『こころ』とは又違った漱石の姿に触れることが出来ます。

次のオススメは、大変漢詩の魅力を上手に伝えてくれる書物に出会いました。漢詩の紹介といえばあの吉川幸次郎・三好達治両氏による名著『新唐詩選』(岩波新書)がまずオススメです。大変美しい文章で、思わず漢詩の世界に引き込まれます。今回の石川忠久氏の『漢詩の講義』は、全国の主要都市で行われた名講義を文字に起こしたものなので、少しでも漢詩・漢文に関心のある方には、その内容がとてもわかりやすい名調子と共にスラスラと頭に入ってくることでしょう。私には特に第四章「漢詩と社会」が面白く、ためになりました。第四章では、白楽天の名作『売炭翁』に多くの紙面を割いて解説してくれていて、想像もつかない現実にむきあった深刻な内容を、見事に詩として表現していることが巧みに解説されています。日本の和歌の世界には見受けられない、こうした社会を風刺する文学の流れにはとても魅力を感じます。

最後に古文に関するお話でお届けしたいのが、作家田辺聖子さんの『むかし・あけぼの -小説枕草子-』です。この書物はあの日本古典三大随筆の一つ『枕草子』の背景を事細かく語ってくれて、なおかつ全く飽きのこない内容で、田辺聖子さんの古典への造詣の深さを垣間見せてくれます。

父である歌人の清原元輔や夫の橘則光との関係が解き明かされていく中で、徐々に清少納言の人となりや中宮定子との出会い、そしてその中宮定子との深い信頼関係の結晶とも言うべき『枕草子』誕生まで、読者をひきつけてやみません。瀬戸内寂聴さんと双璧をなす、古典文学への特に源氏物語への造詣の深さ広さにも、本当に読むたびにただただ驚かされます。古典は好きなのだが、文法がどうも苦手という人は、田辺聖子さんの古典に関する物語やエッセイから入るのも一つの方法です。オススメです!!

コラム一覧へ戻る

▲ページ上部へ戻る