アトリエトーク

『塾長のオススメです!』 Vol.29

平成25年9月20日

河村国語作文塾&学びのアトリエ
河村 勝之

『風立ちぬ』(角川文庫)
   堀 辰雄 著

『決断の経営』(PHP文庫)
   松下 幸之助 著

『コフィン・ダンサー』(上・下)(文春文庫)
   ジェフリー・ディーヴァー著

まず今月の一冊目は、スタジオジブリの宮崎駿監督の最新作『風立ちぬ』(久しぶりに家族全員で映画を観賞しました。とても感銘を受けました。)で、一躍有名になった堀辰雄の『風立ちぬ』をご紹介します。

大学時代か高校時代に手をとった作品なので、37、8年ぶりの再読となりました。主人公の「私」はある娘さんと恋愛関係が生じますが信州での長期療養中、病気のため、未来への希望を持つことはできません。それでも人と自然が調和した西洋風の風景の中で、日々の生命の証(あかし)とも言うべき二人の間の魂のドラマは静かに進行していきます。この作品の中の「風立ちぬ、いざ生きめやも」の一節に再び光をあてた宮崎監督に“あっぱれ”を贈りたいです。

二冊目は私も経営者のはしくれとして、折に触れてはひもとく元パナソニック会長故松下幸之助氏の数ある著作の中から、今読み返している『決断の経営』をとりあげてみました。

その文章はことばの一つ一つに至るまでまさによく磨きぬかれていて、心にしみ通ってくるような説得力を持って読む者の心に迫ってきます。松下氏の「適切な価格、適性な利潤」についての講話はよく出てくるのですが、とても説得力があります。彼はいつも社会の発展のため、その企業で働く人たちのため、決して安売りに走らず、適切な価格をお客様に理解していただく努力が必要だと語ります。自分たちの創り出した商品を誇りを持って何としても世に出したいという情熱と勇気が行間からにじみ出てきて、ふと目頭が熱くなります。経営に興味のある方で彼の作品をお読みでない方は、是非一度は手にとってみて下さい。見事な日本語の例がここにもあります。

最後は、ジェフリー・ディーヴァーのリンカーン・ライムシリーズ第2作『コフィン・ダンサー』をご紹介します。この作者はかつてこのコラムでご紹介させていただいた俳優の児玉清さんが愛してやまなかったミステリー界の巨匠の一人です。

この作品は、恐るべき連続殺人犯“コフィン・ダンサー(柩の前で踊る人)”を、脊椎損傷で四肢マヒの科学捜査官リンカーン・ライムと美貌の女性刑事アメリア・サックスをはじめとするニューヨーク市警の特別捜査チームが見事に追い詰めていくという、いわゆるジェット・コースターミステリーです。緻密で冷静な殺人犯のコフィン・ダンサーに何度もピンチに追い込まれながらも、第一作同様周到な科学捜査で追い詰めていくライムたちの手に汗にぎる物語です。

物語の核心に至るまでの伏線がとても長く、読者にかなりの忍耐を要求しますが、この作品の真犯人が意表をつく形で読者の前に登場してきます。その登場の仕方がこの物語にリアリティーを持たせ、後半のラスト100頁の展開に突入するのですが、その流れが絶妙です。ミステリー好きの方に、ぜひおススメです。

コラム一覧へ戻る

▲ページ上部へ戻る