アトリエトーク

『塾長のオススメです!』 Vol.26

平成25年6月10日

河村国語作文塾&学びのアトリエ
河村 勝之

『徒然草・方丈記(嵐山光三郎・三木卓訳)』(講談社)
   少年少女古典文学館10

『こころの最終講義』(新潮文庫)
   河合 隼雄 著

『ロス・ジェネの逆襲』(ダイヤモンド社)
   池井戸 潤 著

今月の第一冊目は、あの古典中の古典『徒然草』を見事に現代文にアレンジして、読みやすくなっている講談社の少年少女文学館をご紹介させてください。私はこのシリーズが大好きで、時々お世話になっているのですが、今回のこの嵐山光三郎訳の『徒然草』は秀逸です。芭蕉研究で知られる嵐山氏ですが、注が豊富で丁寧、かつ嵐山氏の「かげの声」というサポートが実に適切にはさまっていて、徒然草の読みを楽しく深めてくれます。かのドナルド・キーンさんが、日本の古典教育は文法中心で窮屈になりすぎているが、もっと『源氏物語』等の現代語訳を若い人にどんどん読ませるべきだと提言しているのも、この本を読んでみると「なるほど!」とうなずけます。(私ニモ大変耳ガ痛イ・・・)

二冊目は、村上春樹氏が、「物語について語ることにおいて、彼の右に出る人はいない」とまで言い、その七回忌の集いでわざわざ京大に来て公開インタビューを受けた、京都大学が誇る世界的臨床心理家の故河合隼雄先生の講義録です。先生の文章を読んでいると、あの柔らかい関西弁と共に、今から36年前に教育学部の狭い講義室で先生の授業を聞いたことを思い出します。その講義は理論的な骨組みが実にしっかりしていて、現職教員もたくさん来ておられ、笑いの絶えないものすごく楽しい講義でした。講義で出される臨床例が実に豊富かつ深い内容で、人間の心の不思議さにため息が出る思いでした。河合先生の著書の中で、心理学に興味のある若い人へのオススメは、初期の傑作『コンプレックス』(岩波新書青版)です。私はこの本を自宅浪人している時に読み、京都大学教育学部を受験する大きなきっかけになりました。もう少し体系的なものを読みたいという方には、まずは『ユング心理学入門』(培風館)をおすすめします。

最後は、池上彰さんも近頃推薦している作家、池井戸潤氏の経済エンタメ小説『ロス・ジェネの逆襲』をご紹介します。主人公は、『オレたち花のバブル入行組』で華々しくデビューを飾った快男児、半沢直樹。実に真っ直ぐな男で、読者にとっては痛快で頼もしい男なのですが、今回はその半沢が勤めていた東京中央銀行から、とある事件が原因で、子会社である東京セントラル証券に出向を命じられます。その出向先の会社でIT企業の企業買収に巻き込まれるところから話が始まります。「やられたら倍返し」が彼のモットーであるので、旧知の同期入行組に支えられながら、またしても見事に親会社の東京中央銀行の横暴にきちんとケジメをつけさせていく、まさに経済エンターテインメント小説です。現代の企業買収やその熾烈な生存競争に関心を抱いておられる方は、一度読んでみてください。

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