アトリエトーク

『塾長のオススメです!』 Vol.25

平成25年5月15日

河村国語作文塾&学びのアトリエ
河村 勝之

『おもしろく源氏を読む ―源氏物語講義―』(朝日出版社)
   角田 文衛・中村 真一郎 著

『人類哲学序説』(岩波新書)
   梅原 猛 著

『間宮林蔵』(講談社文庫)
   吉村 昭 著

今月の一冊目は、驚くべき碩学による「源氏物語講義」から始めたいと思います。角田文衛という名前は以前から知ってはいましたし、図書館でこの本を見つけるまでは、おそらく彼の書物は若い頃に読んでいたはずなのに、何たる不明でしょうか。源氏物語を教えるのなら当然知っておかなければならない内容がぎっしり詰まっています。藤原道長と紫式部の血縁関係の近さや若き日の紫式部のことなど、単なる物知りとは違うこの著者ならではの世界観に、これからさらに深く分け入っていこうと思いを新たにしました。

二冊目は、岩波新書初登場の梅原猛氏。3・11の大震災後の日本の状況をふまえて真正面から西洋哲学に対する疑問を投げかけています。日本を代表する哲学者の一人の発言として、決して軽視できない内容が含まれていると感じました。特に第2章の西洋近代を代表する哲学者デカルト・ニーチェ・ハイデガーの三人を挙げ、一人ずつに対して梅原氏の批判を展開していく所は読み応え十分。この著作が、『水底の歌―柿本人麿論』『隠された十字架―法隆寺論』でかつて気煙を上げた氏の新たな代表作となるのか、日本文化を縄文から仏教の伝来を経て古代出雲までくまなく探求し、原子力発電所の崩壊と大震災・大津波を経験した後の今回の渾身の提言だけに、彼の言葉にきちんと耳を傾けてみようと思います。

それにしても梅原氏の八十八歳を超えても尽きることのない探求心には本当に脱帽です。

最後になりましたが、当代きっての人気作家、百田尚樹(つい最近『海賊と呼ばれる男』<上・下>で本屋大賞を授賞しました。『永遠の0(ゼロ)』でも有名)が、今回オススメの『間宮林蔵』の作者、吉村昭氏を畏敬していると聞き、なるほどと妙に感心しました。

今回のこの作品は、吉村昭らしい史実に基づく丹念で重厚な書きぶりで、読者を有無を言わせず林蔵と共に樺太の探索へと駆り立ててくれます。国境を確認するために、樺太の北方地帯に黙々と同行してくれたトンナイ出身のアイヌ人ラロニ、同じく東韃靼のアムール川流域への踏査へ案内役を買ってくれたノテト在住のギリヤーク人のユーニ等、彼をまさに体を張ってサポートしてくれた少数民族の人たち。間宮林蔵の幕府の命を受けたまさに命がけの樺太調査には、こうした現地の人々の労苦を惜しまない献身的な支えがあっての成功だったのだな、と初めて知り、胸を熱くしました。オススメです。

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