アトリエトーク

『塾長のオススメです!』 Vol.24

平成25年4月16日

河村国語作文塾&学びのアトリエ
河村 勝之

『文章読本』(中公文庫)
   丸谷 才一 著

『建築家、走る』(新潮社)
   隈 研吾 著

『64(ロクヨン)』(文藝春秋)
   横山 秀夫 著 -part2-

Vol. 15でご紹介した『思考のレッスン』の著者、故丸谷才一氏の書物をもう一度一冊ずつひも解いていこうと考えていました。その一冊目です。谷崎潤一郎の同名の書物への言及から始まりますが、その文章の軽妙でありながら、しっかり一本の芯の通った内容はさすが、と思わせます。

次々と繰り出される引用される文章には、ハッと思わせる箇所が必ずあり、確かに「目からウロコが落ちる」とはこの事でしょう。日頃から私も意識している事ではありますが、簡潔で品格のある文章を書くためには、日本の平安文学はもちろん、まず漢文(漢詩も含む)の古典を徹底して読みなさいという指摘も我が意を得たり、という思いです。内容が重く濃いのに、あか抜けたセンスの良い文章で、読む者を飽きさせません。

あの国語国文学の巨人、大野晋氏にあとがきを書かせるとは、畏るべし、丸谷才一!!

二冊目は、私の好きな建築家の一人、隈研吾氏のエッセイ集です。Vol. 11で取り上げた安藤忠雄氏、次号で取り上げる予定の中村好文氏、そしてこの隈研吾氏が私のお気に入りの建築家トリオなのですが、安藤氏の情熱、中村氏の繊細と比べて、隈研吾氏の文章は「柔軟」を感じます。この人たちの文章の底には、きちんとした建築という実体を通しての文明批評があり、それがすごく確かな感じを与えてくれます。さらに建築家ならではの、依頼者(クライアント)との対話から来るヒューマンな人間性がにじみ出ている魅力もたまりません。今回のエッセイ集の中でも、隈氏の中国や韓国の躍進する姿を温かくも冷静に見つめている視線にはとても共感しました。

最後にvol. 20で400頁まで読んでご紹介した横山秀夫氏の『64(ロクヨン)』ですが、目出度く完読しましたのでご報告致します。この本の分厚さがどこから来るのか、なぜこんなにも伏線を張り続けなくてはならないのか、終盤で起こる女子高生誘拐事件で、一気にその謎に対する解決の道が見えてきます。17年前に起こった「64」と呼ばれる事件との接点が意外な所から浮かび上がり、元婦警であった主人公の三上の妻、美那子までが捜査に借り出されます。D県警詰めの新聞記者たちとの壮絶な駆け引きの中、主人公の妻が行方不明の自分の娘からだと思い込んでいた無言電話の正体が、最後の最後で解き明かされます。

660頁の登場人物の熱さと話の重さと展開の絶妙さには、ひたすら脱帽しました。今まで読んだ警察小説のベスト1と言っても過言ではありません。横山秀夫氏の『64(ロクヨン)』、とにかく手にとってみてください。超オススメです。

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