アトリエトーク

『塾長のオススメです!』 Vol.23

平成25年3月18日

河村国語作文塾&学びのアトリエ
河村 勝之

『哲学のヒント』(岩波新書)
   藤田 正勝 著

『空海の風景(上・下)』(中公文庫)
   司馬 遼太郎 著

『七つの会議』(日本経済新聞出版社)
   池井戸 潤 著

今月の新年度にむけての一冊目は岩波新書最新刊の『哲学のヒント』です。決して上から目線で哲学の何たるかを啓蒙してあげます、という姿勢ではなくて、読書と共に一歩ずつ認識を共有しつつ問題を掘り下げていくという文体に好感が持てます。かつて小論文の参考書としてもよくとりあげられた岩波新書黄版の『哲学の現在』(中村 雄二郎 著)を意識した著作のようにも見受けられますが、この『哲学のヒント』の方が地味な足取りで私には親近感が感じられます。高校生の小論文、特に人文系志望の人にオススメです。

今月の二冊目は知る人ぞ知る司馬遼太郎の初期の名作『空海の風景』です。今なぜ『空海の風景』なのかについて、ごくプライベートな理由を挙げます。小学校の卒業式の時に、担任の西岡先生(女性)が私にこの本を贈られたからです。従って、三月の卒業式の時期は、必ずこの作品を思い出すという次第です。

何度読んでもなぜか途中で挫折していた書物ですが、その謎がとけました。『龍馬がいく』や『国盗り物語』のようなエンターティメント性に乏しいのです。ものすごく地味な叙述が続くのです。56才となった今ではこの地味さが、実は作者の空海という人物への、司馬遼太郎の並々ならぬ関心と大変深い畏敬の念を感じます。とても慎重な空海へのアプローチが、今では作家の若さ・ひたむきさと感じられ、そういう意味でも新鮮な読書体験をしています。日本のみならず世界的な思想家の一人とも言われる空海の誕生の秘密がどこにあるのか、ゆっくりゆっくりまさに毎日「一頁~二頁」の味読を堪能しています。

最後はこのコラムでも何度も取り上げた池井戸潤の最新作『七つの会議』をご紹介します。舞台は大企業「ソニック」の小会社である東京建電の営業第一課。そこで起こった事件を様々な会議をおりまぜながらミステリータッチで進めたサラリーマンたちの群像劇です。営業第一課の課長である坂戸が、突然人事課への実質的左遷を命じられるところから始まり、その後様々な伏線が見事につながって最終幕を迎えます。一体主人公は誰なのか(は読んでからのお楽しみ!)、二重にも三重にも謎を張り巡らされたストーリー展開は読者を飽きさせません。企業小説が好きな方には特にオススメです。

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