アトリエトーク

『塾長のオススメです!』 Vol.22

平成25年2月10日

河村国語作文塾&学びのアトリエ
河村 勝之

『知的複眼思考法』(講談社+α文庫)
   苅谷 剛彦 著

『源氏物語を知っていますか』(新潮社)
   阿刀田 高 著

『55歳からのハローライフ』(幻冬舎)
   村上 龍

一冊目は前回の『理科系の作文技術』に続く文章の書き方についてのすぐれ物をご紹介します。

東大を代表する教育学者(教育社会学)―現在ハーバード大学教授―であった苅谷剛彦氏ですが、肩書きだけでなく、とにかく文章がわかりやすい。こうした丁寧な教え方が出来る教育学者がいたのなら、習いたかったと思える程、手順の踏み方が見事です。これなら、まちがいなく評論文に対する読解力も自分の考えを書き表す文章力も向上するという実感のもてる大変貴重なHow To本です。特に、第3章「問いのたてかたと展開のしかた」、第4章「複眼思考を身につける」という後半の二章は、具体的かつ論理的で秀逸です。前回同様、高校生の小論文受験(今回は文系の)を真面目に考えている人に特にオススメです。

二冊目は、聖書からコーランから次々と読破しては自分のものにしていく恐るべき作家阿刀田高のいわゆる「源氏本」が出ました。お手並み拝見という気持ちで読みはじめたのですが、決して源氏物語を自分流に読み解いたものではなく、きちんと読みこみながら、しかしゆったりとした文の運びはさすがです。知らず知らずのうちに、肩肘はることなく源氏物語の世界にひきこまれていきます。後半の若菜の巻以降にも目が行き届いていて、心憎いばかりです。源氏好きの人も、また入試のために源氏の内容をコンパクトに(といっても少しは奥行きをもって)知っておきたい人にもオススメです。

最後に今回の超オススメの小説をご紹介します。おそらくこの読書コラムには初登場の作家である村上龍の最新作『55歳からのハローライフ』です。中編小説5編からなっている作品ですが、年齢的にも近いこともあり、とにかく感情移入してしまって大変でした。中でも「空を飛ぶ夢をもう一度」「トラベルヘルパー」はそこまで自分が追い込まれた状況にいるわけでもないのに、やたらと登場人物にリアリティーを感じてしまい、涙腺がゆるみっぱなしでドキドキ・ハラハラ…。
 村上龍の小説は『希望の国のエグゾダス』や『半島を出よ』とかなりハードな近未来小説を読んできただけに、主人公たちの行く末に対して、何とぞハッピーエンドで終わって欲しいと、いてもたってもいられないという気持ちでした。上記二編以外も力作ぞろいで若い人たちがこの小説を読んだらどんな関心を持つのか、是非聞いてみたいと思いました。(保護者の皆様の中に読んだ方がいらっしゃったら、ぜひともアトリエまでメールをお願い致します。)

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