アトリエトーク

『塾長のオススメです!』 Vol.18

平成24年10月10日

河村国語作文塾&学びのアトリエ
河村 勝之

『方丈記 鴨長明 (100分de名著)』
   小林一彦 著(NHK出版)

『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです
   村上春樹インタビュー集 1997~2011』
 村上春樹 著 (文春文庫)

『隠し剣孤影抄』『隠し剣秋風抄』
   藤沢周平 著(文春文庫)

今月のオススメの第一冊目はこのコラム欄ではおなじみの“100分de名著シリーズ”の10月のテキストの『方丈記 鴨長明』をご紹介します。

著者の小林先生は、この『方丈記』を“ツイッター文学”“災害文学”と新しい視点で紹介してくれました。なるほど、『方丈記』は平安末期から鎌倉初期への、福原遷都を含めた天変地異を、大変リアルな描写で書き綴っていますので、こうした視点を導入すると、納得できる場面が増えてきます。“隠者文学”とは誰がつけたのか、虚心坦懐に読むと、『方丈記』の全く違った側面が見えて来て、興味はつきません。東京大空襲の著者自身の体験と重ね合わせた堀田善衛の名著『方丈記私記』もオススメしておきます。

次にオススメしたいのは、以前指揮者小澤征爾との対話集でご紹介した作家村上春樹の最近のインタビュー集を集めた『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです』です。いたる所にちりばめられた、まさに「村上春樹語録集」のような中身の大変濃い一冊です。例えば、村上春樹がロシアのインタビューアーに対しての、

〇僕が、僕の小説の中で描きたかったことのひとつは、「深い混沌の中で生きていく、個人としての人間の姿勢」のようなものだったから。(183頁)

という発言。さらにこのあとで、自分の小説の最終的な目標を『カラマーゾフの兄弟』においています、と述べた後に、

〇僕が語りたいのは、人の心にまっすぐに届く、正直な物語なのです。そして人が本を読み終えたあと、そのまま夢の中に持ち越されるような、強い、リアルな物語なのです。(189頁)

という発言。村上ファンには、まさにこれらの「まっすぐに届く」コトバの数々は、宝物でありましょう。

最後は、このコラム欄でおなじみの藤沢周平の『隠し剣孤影抄』と『隠し剣秋風抄』の二編です。

とにかく多彩、とにかく波乱万丈。次から次へと小藩の中の人間くさいドラマが隠し剣のエピソードをまさに隠し味にして展開されて、読者を全くあきさせません。落ちぶれ、もがき、はいあがり、しかし心の中の大切な愛や誇りを守り通す、一人一人の名も無きヒーローたちにあっぱれ!!です。仕事から帰る市電や地下鉄の中でのまさに「中高年男性応援必至」の二冊です。(あの山田洋次監督もこの中から三本の映画を撮っています。)

コラム一覧へ戻る

▲ページ上部へ戻る