アトリエトーク

センター国語を「よむ」(第1部出題文編)

平成24年8月10日

河村国語作文塾&学びのアトリエ
河村 勝之

~その4漢文について~

さて2012年センター試験最後の漢文となりました。2009年の越王勾践、2010年の杜甫、2011年の孔子・顔回等と中国の歴史上で著名な人物を、今までとは少し違う角度から光をあてる作品がこの3年ほど続きましたが、12年の漢文の出題もまさにこの流れに沿ったものでした。

札幌市の中央図書館で確認した所、主人公の蘇軾(蘇東坡)については多くの書物がありましたが、今回の孫宗鑑作『西ヨ*瑣録』(*余の下に田)は入っていないという事で原典にあたる事はあきらめざるを得ませんでした。

中国の宋の時代を代表する文人政冶家である蘇軾(詩人としては蘇東坡として有名)の人生は、特に21才で科挙(官吏登用試験、非常に難しい)に合格してからの四十数年間は、二度の辛酸をなめた時期を含み、まさに波乱万丈だったと言ってよいでしょう。よく言われる事ですが、そうした人生の中だからこそ彼の楽天性は詩や文章の中でますます輝きを放っています。

今回の文章でも彼のこうした不屈の楽天性に根ざしたユーモア精神が見事に描かれていて、私にはとても印象深かったです。「蛇黄(ジャコウ)」「牛黄(ギュウコウ)」とよく効く薬の名に呼応させる形で「慚惶(ザンコウ)」と答えることで、同じ「コウ」という韻を踏んで、さり気なく落ちをつけるあたりは、詩人としての面目躍如たるものがあります。

私も9ヶ月の妻の入院生活で気づいた事ですが、自分が苦しい時こそ機嫌良くしなければいけないという事でした。ピンチをチャンスに変えるためには、ユーモアが必要ですね。ユーモアによって、ともすれば悲劇のヒーローに陥って、何もしないでただ諦めようとする自分を笑いとばし、そして動きをはじめる。こうした客観的な自己つき放し作用が、ユーモア精神という知性の働きの中に含まれている事を、この文章から教えられました。

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