アトリエトーク

『塾長のオススメです!』 Vol.15

平成24年7月14日

河村国語作文塾&学びのアトリエ
河村 勝之

丸谷才一 著 『思考のレッスン』(文春文庫)

フランツ・カフカ 著 『変身』(新潮文庫)他

川島隆 著 『100分で名著『変身』カフカ-確かな場所など、どこにもない-』(NHK出版)

藤沢周平 著 『市塵(しじん)』(上・下) (講談社文庫)

1冊目は本コラム初登場の丸谷才一氏。この本は読書家の父からかつて「とにかく一度読んでおくといいよ」と言われて気になっていました。そして5年間ほど本棚の隅に眠っていたのを、小論文の授業の準備の一環として読んでおこうと思い立ち、実際読んでみるとその面白いこと。しかも大変有益で、この人の精神というか学問のありようの柔軟性に舌を巻きました。

特にレッスン2「私の考えを励ましてくれた三人」の章のバフチンの箇所はまさに目からウロコ。英文学者で作家でエッセイストの丸谷氏がこんなにも早くからバフチンのドフトエフスキー論に注目していたとは全く知らず、不勉強が又々露呈される始末でした。

2冊目も自分の無知をさらすようで情けないのですが、カフカの『変身』が、バフチンではないですが、こんなにもまさに祝祭的な作品だとは気づいていませんでした。「100分で名著カフカ『変身』」の第4回(最終回)を夜中すぎに録画で観ていて、語っている方たちの『変身』内容とその印象が大学生時代に読んだ印象と随分違っていました。私が読んだ時は、自分がまだ読んでいない世界の名作を読破しようという一念で読んだ一冊だったので、ノルマをこなす感じで全くこの作品の内側に入っていこうとしていなかったのでしょう。

今回再読してみると翻訳ではありますが、その主人公グレゴールザムザが虫に変身してからの描写のなんといきいきとしていることか。変身文学と呼んでいい中島敦の『山月記』も名作ですが、虎も虫にはやはりかなわなかったようで、現代変身文学の東西対決は西の勝ちではないかという気がしてきました。特に若い人に一度読んでみてほしいですね。

ちなみにこの『変身』を、オススメの短編名作群である、ヘッセの『車輪の下』、ジッドの『狭き門』、ヘミングウェイの『老人と海』、武者小路実篤の『友情』、有島武郎の『生まれ出づる悩み』、宮本輝の『泥の河』等々の中に是非加えようと思います。

最後はやはり定番の藤沢周平氏の、今回は歴史小説『市塵(しじん)』をオススメします。徳川綱吉のあとを受けた第6代将軍徳川家宣を補佐し、日本の古典の一冊にも数えられる『折たく柴の記』(自伝)を著した新井白石の一生をたどった堂々たる名作です。時代小説の名品を数々と生んだ藤沢周平氏は、また歴史小説の分野でも大きな山脈(やまなみ)を築いて来ました。この『市塵』以外にも、『密謀』、『漆の実のみのる国』、『回夫の門』、『雲奔る』、『義民が駆ける』、『一茶』、『白き瓶』と様々な力作を書いておられます。このコラムでもいずれ取り上げさせていただく予定です。

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