アトリエトーク

『塾長のオススメです!』 Vol.7

平成23年11月13日

河村国語作文塾&学びのアトリエ
河村 勝之

宮崎 駿 著 『本へのとびら―岩波少年少女文庫を語る』(岩波新書)

藤沢周平 著 『又蔵の火』(文春文庫)

羽生善治 著 『大局観―自分と闘って負けない心』(角川 one テーマ 21)

ついに宮崎駿さんの本が岩波新書として出ました。それも、岩波少年文庫の紹介をする本として。選ばれた本のそれぞれの挿絵がカラーで掲載されていてとても美しく、また宮崎さんも第2部前編「大切な本が一冊あればいい」の中で、印象に残った挿絵について語ってくれているので、是非お読み下さい。第2部後編「三月十一日の後に―子どもたちの隣から―」は、それまでの穏やかな語り口から一転して、子どもたちへの信頼にあふれたメッセージ性の強い内容となり、宮崎さんの個性を感じて大変感銘を受けました。

“子どもへの信頼”を“人への信頼”と置きかえると、私にとってすぐに名前の浮かぶ作家の一人に、敬愛する時代小説・歴史小説作家の藤沢周平氏がおられます。彼の初期の短編をほとんど読まずに、氏の信奉者を気取っていた自分が恥ずかしくなった一冊が、今回の『又蔵の火』です。特にこの表題作には、本当に衝撃を受けました。藤沢氏は四十代後半で直木賞を受賞されたと記憶していますが、デビュー直後にこれだけ激しく己の魂を削るような作品を世に出していたとは、まさに「目からウロコ」でした。まだまだ、藤沢周平の愛読者とは言えないと痛感した一冊でもあり、小説を書くことへの厳しさと志を感じる一冊でした。

最後に、私は毎年受験が近づいて来ると、何か一冊は闘いのプロたちの書物が読みたくなります。今年は、将棋界のスーパースター羽生善治さんの『大局観』がそれでした。羽生さんほどの人でも、最終局面では指している指の震えが止まらないというエピソードを何かで読んでから、ますます彼に対して親近感(というとおこがましいですが)を持つようになりました。羽生さんの口から「升田幸三」ましてや「坂田三吉」という名前が出てくるとは思ってもいなかったので、うれしい誤算でした。さらに彼の現在の天敵とも言うべき渡辺明竜王についても述べられていて、羽生ファンにはたまらない一冊です。将棋に全く興味を持っていない人にも、勝負について色々とヒントを与えてくれる、とても間口の広い、奥行きのあるエッセイとしてオススメです。

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