フォレストーク

『平均(期待値)はあてにならない?』

平成20年5月15日

数学科講師 黒田

初回は高校数学の中でも一番身近で役に立ちそうな感じのする「確率」について、その中でも特に『期待値』に関するお話をしようと思います。期待値とは平均とも呼ばれ、およそどれだけ利益などが期待できるか?というものです。例えば、次のようなゲームを考えてみましょう。

ゲーム 100円硬貨を投げて、表が出たらその硬貨をもらい、裏が出たらもらえない。

この場合には、表が出る確率も裏が出る確率もどちらも50%です。(数学では100%を1とするので、どちらの確率も2分の1とします。)なので、このゲームの賞金を期待できる金額を考えてみると、100円を半分の確率でもらえるので

100×1/2=50

となり、このゲームに参加すれば1回あたり50円もらえることが期待できるわけです。この期待値の応用として、次のような問題が試験によく出題されています。

問題1
上のゲーム1に40円払って参加することができる。このゲームに参加することは得であるか?

教科書や問題集の模範解答は

賞金の期待値は50円であり、参加料40円よりも高いから参加することは得である。

となり、これだと丸がもらえます。高校数学の問題としては『賞金や売り上げの期待値が参加料やコストを上回れば得である』となっているからです。私も最初に学校で習った時には納得してしまいましたが、果たして本当にそうなのでしょうか?

そこで、今度は次のような問題を考えて見ましょう。

問題2
1億本に1本当たりが入っているくじがあり、当たりを引くと賞金200億円をもらえるとする。このくじに100円払って参加することができる。参加することは得であるか?

先ほどの問題と同じように賞金の期待値を求めると200億×1億分の1=200より、200円となります。参加料100円でしたから参加することは得ということになりますが…私なら参加しません。直感的にも「確かに当たれば大きいけど、何回やっても全然当たらないだろうから参加料が無駄」と考えるのではないでしょうか。なぜこのようなことが起こるのかを考えて見ると、期待値とは単純に平均をとったものであることにあります。例えば、模擬試験では平均点に近い点数をとったからといって、順位も真ん中に近いかどうかはわかりません。点数の分布のグラフがいびつな場合は、真ん中からずれることもしばしばです。

実はその平均と現実のずれを表す指標として「標準偏差」というものがあります。その定義はここでは割愛しますが、数値が大きいほどずれが大きいことを表す量です。(大雑把にいえば「ずれの期待値」のようなものです。)上の問題1では標準偏差は50、問題2ではおよそ200000となり、問題1はともかくとして、問題2ではずれが大きく期待値通りの結果はほとんど期待できないというわけです。実際、統計学ではこの期待値と標準偏差はセットで考えるのが基本となっています。例えば、皆さんになじみのある偏差値は、試験の平均点とこの標準偏差を用いて算出されています。では、どうして高校数学ではこの重要なファクターである標準偏差を習わないのでしょうか。

その理由は旧課程では数学Bを履修する多くの学校で標準偏差を教えていたのに、新課程になってからは(教科書には残っていますが、実質削除されて)扱われなくなってしまったことにあります。期待値しか習わないために学習したことを現実に適用しようとするとおかしなことになってしまうのは、数学を教える立場としてはつらいものです。ただ、試験問題では暗黙のうちに問題2のようなものは出題しないようになっているので、学生の皆さんが問題を解く時には心配せず期待値と参加料を比較して議論すれば大丈夫です。

余談ですが、年末ジャンボ宝くじの当選金の期待値はおよそ140円くらいになります。(標準偏差はかなり大きいです。)1枚300円ですから、数学の問題なら、「損だから買わないほうがよい」ということになりますが、私の両親は毎年買っています。当たらないのはわかっているけど夢を買っているんだし参加するのが楽しいんだそうで、他にもそのような方は多いのではないでしょうか。何でも数式や数値だけで損得を判断するのではなく、おおらかに生きるのが人生を楽しくするのかもしれませんね。

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